第8回 理学研究科 D3 新屋 啓文さん

写真 新屋さん

取材実施日:2013年4月22日

第8回研究室訪問は、理学研究科 数理分子生命理学専攻 数理計算理学講座 現象数理学研究室の博士課程後期(D)3年、新屋啓文さんが取材に応じてくれました。今回も研究を始めたきっかけや研究室の特色、研究のやりがい等色々と伺ってきました。

Q:研究を始めたきっかけは?

高校から数学が得意でしたが、その数学が社会や実生活でどのように役立つだろうかという疑問を持っていました。
その疑問の解明と得意な数学をより深く学ぶため、理学部数学科へ入学しました。学部時には、数学問題を解決するためのプログラミング言語や一部の自然現象を数式で表現する授業を受け、「世の中に存在する様々な自然現象を数式で表せるのではないか?」という想いが頭の中にありました。そこで、Mから数理分子生命理学専攻へ進学し、現在の研究テーマを見つけました。

Q:研究内容はどのようなものですか?

現在は地形の形成や運動、特に砂丘の形状が作り出されるメカニズムの解明や動きの予測などを、数式で記述されるモデル構築を通して研究しています。まず、砂丘単体の大きさは最小で1mあり、巨大な物だと100mを越えています。そして、砂丘が移動する速度は1年間で数m程度なので、観測や実験による測定が非常に難しいです。近年は、水槽を用いた水中で、実際の砂丘形態に良く似た縮小水成砂丘の形成に成功しており、砂丘の形成や運動に関する実験事実が着々と蓄積されつつあります。そこで、私たちは観測や実験事実に基づいた仮説を立て、モデルを構築することで、巨視的な砂丘に対して理論的なアプローチを進めています。
また、砂丘は風の向きによって多数の形状を示しますが、中でも一方向に風が吹いている条件下の砂丘の移動を、一方向に進んでいる車の流れと関連付けることも可能です。つまり、砂丘運動のメカニズムの解明は交通渋滞といった一見異なる現象に応用できると考えられます。

Q:D進学の決め手は?

私は大学に入学した時点でMまで進もうと決めていました。なぜなら、学部四年の期間で専門的な研究を行えるのは研究室配属後の一年だろうと思い、研究の面白 さや深さに触れるためには、Mの二年間も研究に打ち込むべきだと考えていました。
当初はM終了後に一般企業への就職を考えており、実際に就職活動を行なっていましたが、M1の12月に九州大学で開催された地形に関する研究会へ参加したことを契機にD進学を決意しました。その研究会は、波打ち際に見られる微地形から河川や氷河などの巨視的な地形形成、惑星の構造形成に至る幅広い分野を包括した非常にユニークなものでした。そして、私は研究会を通じて視野が大 きく広がるのに加え、「面白い!」「こんな研究を行うことができるのか!」と感銘を受け、この経験を機にDへ進学し研究を継続しようと決心しました。
 

Q:研究のやりがいは?

世の中の誰一人として解き明かしていない未解決な問題に挑戦することが研究であり、それこそが研究の面白さだと考えています。
また、自分が仮説を立て構築したモデルで現象を再現した瞬間は達成感を得ますが、一方で、予想と反する結果を得た場合には、「なぜそのような結果が生じたのか?」という疑問を解決するための考察を行います。そして、様々な観点からデータを測定し検証を繰り返しながら、現象のメカニズムの解明に取り組みます。
私は、この時間こそが一番の研究のやりがいだと感じています。

Q:先生の指導方針や研究室の特色は?

私の指導教員である西森先生は学生の意見を大事にする先生です。(注1)
例えば、研究テーマを決める際は、学生から自由にアイデアを出させます。そして、学生は提案したテーマに対し何度も先生と議論を重ね、具体的に実現可能な研究計画を立て、取り組んでいきます。
研究室の雰囲気は一言で言うとフレンドリーです。これは、セミナーなどで学年など関係なく誰もが意見を発言しやすく、常に研究のディスカッションを行える環境が整っていることを意味しています。そのような雰囲気は、研究室のトップである西森先生が醸し出しており、自然と他のメンバーへと受け継がれています。

Q:研究環境はいかがですか?

西森先生と粟津先生の尽力により、学生が研究生活を送る上で十分な資材が整っています。例えば、各学生に対し計算機や実験器具が支給され、先生が学生の研究分野と関連する学会や研究会などの案内を受け取った場合、積極的に参加を進めてくださり、その分の出張費も支給されます。
また、共同研究に関して、同専攻内の化学と生物の両分野で密接に進んでおり、現在は「核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点」というプロジェクトの理論分野の中核を粟津先生が担っておられます。さらに、西森先生は国内外を問わず他大学や研究所と盛んに共同研究を行なっています。

写真 新屋さん

Q:就職はどのような方面にされる方が多いですか?

最近は、学部生のほとんどがMへ進学します。そして、Mで修了する学生の就職先として、企業の一般職(システムエンジニア、物流系など)や教員になる方が多いです。これは、学部時に教員免許の取得が可能なため、中学・高校の数学の免許を取得している人が多いからです。また、MからDへの進学者は多くなく、M三人中一人くらいの割合です。D修了後は、大学や研究所の研究者(PD)として残るか、企業の研究職に就いています。

Q:今後のご自身の展望は?

大学に残り研究者を目指したいと思っています。なぜなら、自由な発想で研究を行えるのが大学の魅力であると共に、若手の育成が可能な点が挙げられます。今後、研究者として第一線で活躍できるように尽力していきますが、当該研究分野の後継者育成も発展のために欠かせない要因と考えます。将来的には、自身の研究と若手育成を上手く割り振っていきたいです。

Q:D人材であることの価値は何だと思われますか?

「考える力」を身に付けることが重要な価値だと思います。一つ の物事に時間を掛けて考察 する事は、学部やMの研究時にも培えますが、Dまで続けると時間と内容が増えるだけでなく、他者を納得させるだけの論理的思考力が要求されます。これは日 常生活において容易に培えるものでなく、対象を様々な角度から捉え思考する研究を行うことで、自身の「考える力」が最も培われると考えます。

Q:D進学を目指す学生へメッセージ

D進学に際しては覚悟が必要です。人に勧められたという理由でDへ進むのでなく、自分が研究を続けたいと思えるならば、進学をお勧めします。
以後の責任は全て自分で背負うことになりますが、それに見合うだけの充実感が得られると私は考えます。最終的には、「自分の気持に正直になる」「研究に対する熱意」が重要です。

(注1)現象数理学研究室 教授西森先生には以前にインタビューを行っています。先生の研究内容や指導方針については以下をご参照ください。
「Professional 先生の流儀」 第1回 理学研究科 教授 西森拓先生 インタビュー

取材者:志田 乙絵 (文学研究科人文学専攻 日本・中国文学語学コース 博士課程前期1年)


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