広島大学大学院 理学研究科 光物性研究室訪問 (谷口研究室)
取材実施日:2013年1月10日
第2回研究室訪問は、光物性研究室の博士課程後期(D)3年、内海有希さんが取材に応じてくれました。今回も研究を始めたきっかけや研究室の特色、研究のやりがい等色々とお伺いしました。
Q:研究を始めたきっかけは?
大学院進学は大学に入ってすぐの1年~2年生の頃から考えていました。でも、それはまだ漠然としたものであって、本格的に大学院・Drに進学しようと決意したのは学部4年生の時です。もともと興味はあったのですが、研究内容と研究室の雰囲気が決め手になりました。
Q:研究内容はどのようなものですか?
光物性研究室では、放射光(注1)を用いて物質の性質を明らかにするということをしています。最近の私の研究対象は、イッテルビウムという化合物で、その中でも、最近、名古屋工業大学の大原繁男教授らによって新たに発見されたYbNi3Al9とYbNi3Ga9という物質の違いを見ています。
この2つの化合物は、同じ結晶構造で、AlかGaという同族原子の違いだけにもかかわらず、低温で前者は磁気秩序をもち、後者は非磁性になるという違いがあります。このような、いまだ謎が多い物質に対し放射光を当て電子を飛び出させ、その電子の状態から物質の性質を明らかにします。まだまだ謎が多いこれらの物質の特性が明らかになるにつれ、いずれは色々な分野で応用されていくと思います。
Q:研究室の特色や環境はどのような感じですか?
光物性研究室は、放射光研究室と一緒になることが多いので、学生一人あたりの先生の人数が多く、困ったときに聞きに行ける先生方が沢山います。
私に直接指導をして下さっているのは放射光の佐藤先生です。佐藤先生はあれこれ学生に指示するのではなく、教科書的なものは自分で勉強しなさいとし、学生の自立性を尊重し、学生自身が自分で方向性を見出すような指導をしてくれます。
光物性研究室のゼミでは、個体物理の基礎的な教科書の輪読や、それぞれの関連研究論文の紹介を週1回行っており、毎週担当の学生が発表し、基礎的な面から応用的な面まで幅広く学べています。
研究環境として、設備面では広島大学には放射光施設があり、最先端の研究が出来る非常に恵まれた研究環境です。また、学会に参加する機会も国内外を問わず与えて頂いており、様々な面からみても本当に恵まれた良い環境だと思います。
Q:就職はどのような方面にされる方が多いのですか?
学部卒で就職される方は少なく、大体の方が修士課程までは進みます。修士以上の学生は、企業であれば旭化成や東芝の研究者になった方もいますし、大学の先生や放射光センターで働かれている方もいます。また、最近では学校の先生になられた方もいるので、就職先は本当に様々です。
Q:内海さんも最近就職が決まられてとお聞きしましたが、どのようなところですか?
ドイツにあるマックスプランク研究所というところで来年度から研究させて頂きます。放射光をメインに行っている研究所ではないのですが、谷口先生も昔働かれていたところで、非常に研究環境がいいところだとは伺っており、実際に訪問してその整った環境を実感しました。
Q:研究のやりがいや、自身の今後の展望は?
研究成果は人類の財産だと思っています。自分の成果が論文になって世界の人々が見て、さらに他の研究につながる。このように自分の成果が役に立つかもしれないということが、研究のやりがいだと思っています。
今後の展望としては、研究者として物性の研究を続けていきたいと思っていますし、現在対象としている希土類化合物以外の物質にも挑戦していきたいと思っています。
(注1)放射光とは何かについて、事前にHiSOR 広島大学放射光科学研究センターを訪問し、島田研究室博士課程後期(D)3年の林さんに色々と説明、案内して頂きましたので、以下HiSOR 広島大学放射光科学研究センター訪問記をご覧ください。
HiSOR 広島大学放射光科学研究センター訪問記
広島大学が誇る最先端研究施設である放射光科学研究センターを訪問し、島田研究室博士課程後期(D)3年の林さんに色々と説明、案内して頂きました。内海さんの研究もここの設備を使用して行われています。
Q:放射光ってなんですか?
放射光は電子が磁石の間を通過するとき、その進行方向に出す強力な光のことです。人類が手に入れた最も強力な光で「夢の光」とも呼ばれていました。
Q:放射光を使って物質の性質を解明する仕組みは?
放射光を物質に当てることで、物質から電子が出てきます。その出てきた電子のエネルギーや強度などを解明することで、物質の性質を見ることができるんです。
Q放射光実験施設は日本に何か所ありますか?
日本全国で8か所あって、有名なのは神戸のSpring-8という施設で、日本で8か所しかない放射光設備の一つがある広島大学は非常に恵まれているといえるでしょう。
林さん、色々とお話を聞かせて頂きありがとうございました。他にもいろいろお話を伺いましたが、今回の訪問記では語りつくせません。詳しい話を知りたいと思った方は、直接広島大学放射光科学研究センターをお訪ねください。
最後に林さん(若手研究人材養成センター第VI期養成者:平成25年4月企業就職予定)について少し伺ってみました。
Q:林さんは現在何を研究しているんですか?
バラジウム金属の単結晶について研究しています。具体的には、物質中の電子を放射光で取り出し、金属の構造を解明しています。
Q:なぜ今のテーマを選ばれたのですか?
学部4年生の時に配属された先が、現在のテーマについて研究していて興味を持ったからです。
Q:研究に対するモチベーションを教えて下さい。
世界で誰もやっていないことを初めて研究するというところに魅力があります。自分が初めてデータを解析できる点にやりがいを感じています。
取材者:須藤 絢 (国際協力研究科 博士課程前期2年)