第19回 教育学研究科 D2 山田 真子さん

写真:山田真子さん

取材日 2014年12月8日

第19回研究室訪問は、教育学研究科 文化教育開発専攻 科学教育学研究室の博士課程後期(D)2年、山田真子(やまだ まさこ)さんが取材に応じてくれました。愛媛大学から広島大学大学院の教育学研究科 科学教育学研究室に進学した山田さんに、小学校の低学年における理科に関する歴史的研究のやりがいやD進学へ至った決め手などを伺ってきました。

現在の研究内容はどのようなものですか?

研究テーマは、小学校の低学年における理科に関わる学習の存在意義と価値についての研究です。主として、歴史的アプローチと比較教育学的アプローチからその存在意義と価値を明らかにしようとしています。
日本において、小学校の低学年における理科に関わる学習をどのような形で、どのように行うべきなのかということについては、明治時代からずっと議論され続けており、その明確な答えは未だに出ていないとされています。歴史的に見ると、明治14年に、法令上、小学校の低学年において理科に関わる学習が行われないこととなりました。そのような状況の中、当時の理科教育の研究者や教師たちが、低学年における理科に関する実践的研究を行い、低学年に理科を特設することを求める運動を起こしました。そして、昭和16年に低学年において理科に関わる学習が行われることとなりました。平成元年には、小学校第1、2学年の理科は廃止され、新たに生活科が設置され、その中で理科的教材を用いて自然とのかかわりに関する学習が行われています。
このような歴史的な背景を歴史的な資料を用いて分析することによって、小学校の低学年における理科に関わる学習の存在意義や価値は何なのか、どのように教えるべきなのか、何を教えるべきなのか、などの問題を再考したいと考えています。他方、日本の低学年における理科教育は、海外の低学年の科学教育の思想(アメリカのNature Study やドイツのRealienなど)の影響を受けていますので、比較教育学的な視点から分析する必要もあります。上述の歴史的な視点、及び比較教育学的な視点から、低学年における理科に関わる学習のあり方を明らかにしようとしています。

研究のやりがいは?

私の研究は、学校の先生方の日々の授業にすぐに役立つとは限りませんが、将来、カリキュラムを作製したり、教科書を改訂したりする際にほんの少しでも役立つような資料を作れたら本望です。
例えば、修士論文では、小学校理科第6学年の教科書に記載されている、掘り取った植物の根を食紅などで着色した色水に浸して、植物の水の通り道を調べる実験について研究しました(注1)。本研究では、傷ついていない根からは色水の色素が道管内に浸透しないことが確認され、教科書に記載されている実験では、掘り取る操作により根が損傷を受け、そこから色水が道管内に直接吸収されていることが推察されます。掘り取った植物の根を色水に浸して色水が吸い上げられた場合に、色水が根から吸収されたという記憶が児童の頭に残り、色水の色素のような大きな粒子が根から吸収されるという間違った認識をもつ可能性があります。また、教師が丁寧に根を掘り取った際に根の損傷が少ないと、実験がうまくいかない場合があります。この解決策として、色水がうまく吸い上げられない場合には、安全カミソリの刃等で根の先端を切断するなどの措置を講ずることが挙げられます。この方法を用いた場合、色水は根の表面から吸収されたのではなく、根の切り口から吸収されたという解釈が導けるので、児童が間違って理解することを防げると考えられます(山田、2014)。
無論、小学校の理科の授業で行う全ての実験一つ一つに対して、科学的に正しいかどうかを厳密に突き詰める必要はないと思います。科学的な忠実性ももちろん大切ですが、小学校の理科においては、まず、何をどのように分かりやすく教えるのかを熟考するべきだと思います。子どもが学ぶべき内容を、分かりやすく、かつできる限り科学的に正しく伝えられるような実験が教科書に載っていればと思います。

研究を始めたきっかけは?

昔から、教員になりたいという思いよりも、研究をしたいという思いが強かったです。また、小さい頃から理科が好きでした。大学では、理科教育について学びたいと思い、地元の大学(愛媛大学)の教育学部の理科教育を学べるコースに進学しました。大学の授業を受ける中で、理科教育の面白さを実感し、将来は理科教育に関する研究がしたいと思うようになりました。

D進学の決め手は?

大学生のころから、理科の教材研究に興味があり、修士課程のときも、主として教材研究をしていました。研究を進める中で、理科の教材の歴史、ひいては理科教育の歴史の重要性を感じ、理科教育の歴史を再考することによって、現在の理科教育のあり方が明確になるのではないかと思いました。また、近年の理科教育の研究において歴史的研究は少なく、若い世代に歴史的研究の重要性を広める一端を担えたらと思いました。
また、なぜ広島大学大学院に進学したかというと、歴史的に研究をするのであれば、現在の指導教員である磯﨑先生のもとで研究がしたいと思ったからです。磯﨑先生は、歴史的アプローチはもちろんのこと、比較教育学的アプローチなど様々なアプローチを駆使し、多方面から理科教育を捉え、深く、鋭く考察される先生ですので、私も先生のように理科教育を見ることができるようになりたいと思い、現在の研究室に進学しました。

先生の指導方針や研究室の特色は?

磯﨑先生は、学生の主体性や独自性を重視しつつ、熱心で丁寧な指導をしてくださる先生です。
基本的には、学生各々が自分の研究をある程度進め、形にし、先生にご指導いただきます。また、先生のご指導に基づいて、自分で再考し、修正し、再び先生に見ていただくというプロセスを繰り返します。それは、ゼミとは関係なく、不定期に行われていますので、学生個人のやる気と頑張りが重要だと言えます。
ゼミは、基本的には学部3年生から博士課程の院生まで全員参加で行われていますが、時々院生だけのゼミもあります。また、研究室の院生は、毎年8月に開催される理科教育学会で発表を行い、さらに近年は海外での学会発表を積極的に行っています。

写真:山田さんと研究室のみなさん
写真:研究をする山田さん

今後のご自身の展望は?

大学生のころから、理科の教材研究に興味があり、修士課程のときも、主として教材研究をしていました。研究を進める中で、理科の教材の歴史、ひいては理科教育の歴史の重要性を感じ、理科教育の歴史を再考することによって、現在の理科教育のあり方が明確になるのではないかと思いました。また、近年の理科教育の研究において歴史的研究は少なく、若い世代に歴史的研究の重要性を広める一端を担えたらと思いました。
また、なぜ広島大学大学院に進学したかというと、歴史的に研究をするのであれば、現在の指導教員である磯﨑先生のもとで研究がしたいと思ったからです。磯﨑先生は、歴史的アプローチはもちろんのこと、比較教育学的アプローチなど様々なアプローチを駆使し、多方面から理科教育を捉え、深く、鋭く考察される先生ですので、私も先生のように理科教育を見ることができるようになりたいと思い、現在の研究室に進学しました。

写真:山田真子さん

D進学を考える学生へのメッセージ

私もたくさん悩みましたが、結局研究をしたいという気持ちが大事だと思います。研究をしたいという強い気持ちがあるのであれば、やってみた方が後悔は残らないのではないかと思います。もちろん辛いこともありますが、振り返って見ると、全て自分のためになります。物事の見方も深くなりますし、自分の可能性も広がると思います。

注1 山田真子他(2014)「小学校理科における植物の水の通り道を調べる実験に関する研究」を参照してください
注2 G.ecbo遡上教育型海外インターンシップhttps://www.hiroshima-u.ac.jp/gecbo/

取材者:葉 夢珂(教育学研究科 言語文化教育学専攻 日本語教育学専修 博士課程前期1年)


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