第23回 理学研究科 D3 菊池 早希子さん

写真 菊池さん

  取材日 2015年3月6日

第23回研究室訪問は、理学研究科 地球惑星システム学専攻の博士課程後期(D)3年の菊池早希子(きくちさきこ)さんが取材に応じてくれました。鉱物を作りだす微生物に関する研究をされている菊池さんに、研究のやりがいや微生物に興味を持ったきっかけなどを伺ってきました。

研究内容はどのようなものですか?

私たちの身の回りにはたくさんの鉱物がありますが、一部の鉱物は微生物によって作られています。鉱物を作りだす微生物は色々と存在しますが、中でも私は、溶存二価鉄を酸化させることで鉄鉱物を作りだす鉄酸化菌に関する研究をしています。具体的には、鉄酸化菌がどのような鉱物を作るのか、できた鉱物が微量元素をどのように・どのくらい吸着する能力を持っているのかについて調べています。例えば、鉱物には、他の元素を吸着する物と吸着しない物があります。もしも鉄酸化菌が作りだす水酸化鉄が他の元素を多くくっつける性質を持っている場合、ヒ素といった有害元素の除去に利用できる可能性があります。鉄酸化菌が作りだす水酸化鉄は私たちの身の回りに広く存在しています。そのため、鉄酸化菌がつくり出す水酸化鉄の特性を知ることは、実際に天然で生じている元素の循環を知ること以外にも、これらを応用して汚染水を浄化するといった環境微生物工学への発展にもつながると考えています。
鉄酸化菌が作りだす水酸化鉄(下:赤茶色の部分が水酸化鉄、広島大学近辺にて撮影)への理解は、現在の環境だけでなく、古代の環境の理解にも繋がると考えています。例えば、地球全体に存在している先カンブリア紀の縞状鉄鉱床(注1)の形成にはシアノバクテリアが関わったという考えが一般的ですが、その形成の一部を鉄酸化菌が担った可能性も指摘されています。よって、現在の環境でみられる鉄酸化菌の活動や鉄酸化菌由来の鉱物が示す役割を解明することで、古代の環境の理解にもつながる可能性があります。    

写真:水酸化鉄

研究を始めたきっかけは?

高校生のころは、生き物に関する研究がしたいと思っていました。特に、人間とそれ以外の動物の姿の違いやコミュニケーションの取り方の違いに興味がありました。しかしながら、自分で本を読んだり、テレビを見たりして勉強するうちに、動物の姿やコミュニケーション方法を形作るのは、私たちを取り囲む“環境”だと気づかされました。そこで、まずは環境について勉強することが重要と考え、広島大学の地球惑星システム学科への入学を決めました。
とは言っても、生き物に関することも研究したいという気持ちが大学入学後も頭にありました。その中で学部3年生の時、今の指導教員でもある高橋先生の授業で、広島大学のぶどう池にある溶存鉄濃度を測定するという課題がありました。その時に、ぶどう池の溶存鉄は鉄酸化菌よって利用され、水酸化鉄として沈殿していることを知りました。私たちの肉眼では見えない1ミクロン程度の小さな微生物が、私たちから見ても大きいといえる水酸化鉄の堆積物を生み出していることに大きな衝撃を受けました。それ以来、鉄酸化菌がどうやって生きているのか、どうやって鉱物を沈殿させているのかに興味を持つようになったのが研究を始めたきっかけです。

D進学の決め手は?

研究が何よりも好きで、やりがいを感じ、引き続き今の研究を続けたいと思ったことが最も大きな理由です。もちろん、先生や先輩、両親達が私の進学をサポートしてくれたことも理由の一つです。研究を通して、自分なりに考えて仮説を立て、それを証明出来た瞬間が何より嬉しいです。また、予想とは異なる結果がでたとしても、そのデータの中で色々考えていく内に、今まで気付けなかったことを明らかに出来た瞬間は大きな充実感を感じます。そうして、自分で考え、試行錯誤していくことは面白いですし、やりがいでもあります。また、得られた結果を学会などで発表することによって、研究をきっかけに世界中の人と交流できることも楽しく感じています。

先生の指導方針や研究室の特色は? 

研究は、自分で考えて実験をし、セミナーでの発表を通して、先生から色々なアドバイスをいただくことで進めていくことが基本となります。もちろんセミナー以外の時でも、自分から相談に行くことは可能ですし、高橋先生はとても学生のことを気にかけてくださる先生ですので、頻繁に私たちの様子をみていただけます。そのため、日常的に研究について話し合うことができます。
研究室の特色の一つとして、多角的な視点から一つの現象を捉えることが挙げられると思います。航海に出るなどのフィールドサーチを通して、天然のサンプルを採取し、分析することだけでなく、天然現象をより詳しく把握するために、実験室内で天然を再現し、実験や分析、シュミレーションを行っています。研究室の多くの学生が分子軌道計算(注2)、XAFS法、DNA解析といった、様々な研究手法を併せて研究を行っています。

研究環境はいかがですか?

広島大学の地球惑星システム学科にはほとんどの実験機器が揃っています。もしも無い物があったとしても、先生に使用目的や期待される結果をきちんと説明すれば、購入して頂けたり、他の場所の物を借りる機会を頂くことができました。そのため今まで研究を行う上で、困ったことはありませんでした。

今後のご自身の展望は?

微生物と鉱物の相互作用について、これからも引き続き研究していきたいです。私の専攻分野は生物地球化学といって、地球化学と環境微生物学の両者の分析手法や考察思考を必要とする分野です。今後も色々なことを積極的に学んでいき、地球化学と環境微生物学の2つの分野を自由に渡り歩けるような研究者になりたいと思っています。
大学の機関と研究所のどちらに進むのかについては、(どちらも魅力的であるため、) まだ決めていません。ですが、来年度から研究所で研究する機会をいただくことができましたので、まずは研究所で自分の役割を果たすところから始めたいと思います。

写真 菊池さん

(注1) 縞状鉄鉱床とは、縞模様が特徴的な酸化鉄を主体とする堆積物である。

(注2) 分子軌道計算とは、電子の分子軌道を計算することである。これにより分子の最安定構造やエネルギーを求め、分子の構造や化学反応などに関する特性を理論的に調べることができる。

 

取材者:杉江 健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期2年)

 


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