第11回 工学研究科 D3 貞本 将太さん

写真:貞本将太さん

 取材実施日:2013年7月23日

第11回研究室訪問は、工学研究科 輸送・環境システム専攻 構造システム研究室の博士課程後期(D)3年、貞本将太(さだもとしょうた)さんが取材に応じてくれました。計算力学の分野で新しい手法に着目しながら計算手法の開発を行っている貞本さんに、D進学の決め手や研究のやりがいなどを伺ってきました。

研究を始めたきっかけは?

幼い頃から工作やプラモデル作りが好きでした。父の趣味である日曜大工に付き合って、一緒に椅子や机を作ったこともあります。このような背景から、ものづくりや建築に興味を持ったので工学部の第四類(建設・環境系)へ入学しました。
学部三年生の時に、授業で人力前進可能なペーパービークル作り(注1)をした事が今の構造解析の研究へ繋がっています。4、5名のチームを組み、ものづくりの最初から最後まで行い、コンセプトの立案時、構造設計の完成時、プロジェクトの終了時の各段階においてプレゼンテーションをしました。(注2)私は、構造解析における強度計算の段階を担当し、いかに安全で効率のよい車体を作るかに苦心しました。この経験から、現在の研究室を選び、構造解析をテーマに据えるようになりました。

研究内容はどのようなものですか?

私の研究は「計算力学」という分野に属します。物理現象は微分方程式によって記述され、計算力学ではその定式化や、それに基づいたソフトウェアの開発などを行い、様々な現象のシミュレーションを行います。ひとえに物理現象のシミュレーションといってもその対象や方法は多岐に渡り、水や空気などの流体問題や、皆さんの持つ一つ一つの製品や輸送機器、建築物などの構造物や固体の問題、あるいは電磁場や更にミクロな物質についてのものもあり、我々は多くの場でこれらの技術の恩恵を受けています。私はこの中でも構造物の問題を専門に取り扱っています。一般的に、ある製品の製造過程では設計段階で強度のシミュレーションが行われます。想定される力に対する安全性や、重量や製造コストなどを適切に満足させるためにはこの強度計算はとても重要なものになります。            
私の研究内容はこの強度計算のための新しい計算手法の開発です。構造解析の分野では従来から「有限要素法(FEM: Finite Element Method)」という手法が広く用いられていて、高精度なシミュレーション手法として知られています。しかし、この手法にも苦手な現象として流体問題や破壊現象などがあり、それらを比較的柔軟に取り扱える方法として「メッシュフリー法」、または「粒子法」などと呼ばれる方法が近年注目されています。一方でこれらの新しい手法では構造解析における精度については不十分な点が多く、我々はこの「メッシュフリー/粒子法を用いた高精度な構造解析」という点に着目しました。
また、とりわけ当研究室では古くから「船体」の構造解析が主たるテーマとして扱われてきました。船舶は大部分が板によって構成されており、加えて海洋での運用において流体問題と併せて考える必要があるため、メッシュフリー/粒子法による構造の高精度なシミュレーションが行えたとすると、その発展に大きく寄与できるのではないかということから、私は「メッシュフリー/粒子法を用いた板構造物の高精度なシミュレーション」をテーマに研究を実施しています。

写真:研究内容を説明する貞本さん

D進学の決め手は?

私の研究テーマは前任者から受け継いだものではなく、学部四年生の頃に新規設定し、一人で進めてきたものです。M修了時点で一応の成果は出ていましたが、頭の中に案はあるのに実現できていないという部分も多く、自分の手法が中途半端なまま終わってしまうのが悔しいという想いがありました。また、Dに進学して3年間研究に没頭するのも自身にとって貴重な経験になるだろうということも考えていました。
ただ一方で、このような動機なので経済的に自立せず進学することには抵抗がありましたが、その目途も立ち、また当研究室や外部の先生方から声をかけて頂いたことなどが決め手となり、進学を決意しました。

写真:パソコンを操作する貞本さん

先生の指導方針や研究室の特色は?

何時から何時までは研究室で作業する、というコアタイムのようなものは特にありませんが、「やることはきちんとやる」という方針の下、各学生がそれぞれ熱心に研究に取り組んでおり、先生方もフォローをしっかりとして下さっています。教員の岡澤先生、田中先生の人柄もあって、考え方がフレキシブルであり、類似した研究内容でなくとも各々の研究に対して研究室全体で意見を言い合えるような雰囲気が特色です。
ゼミの進め方は、二、三か月に一度全体でミーティングを行い、各自の進捗報告をします。それ以外では質問や提案など、必要があれば担当教員の先生と適宜ディスカッションを行っています。
また、当研究室は従来から産学連携が盛んであることもあり、これまでも輸送機器系や重工系の企業など計算力学に関わる分野との共同研究は盛んに行われています。

研究環境はいかがですか?

研究費は岡澤先生、田中先生の尽力のおかげで、充分に用意されています。研究室で獲得する資金のほかにも、個人で研究費や講演会のための旅費を獲得することもあります。研究機材も揃っており、地下に専用の計算機を所有しており、研究する上で不自由を感じたことはありません。上述の通り共同研究も盛んであるので、卒業後に向けても良い経験ができる場だと思います。

就職はどのような方面にされる方が多いですか?

学部卒業生の多くがMに進学します。M修了生は、自動車関係や電力関係、ネットワーク関係、重工系など幅広い分野へ就職しています。自身の研究をそのまま活かせる職場もありますが、そうでないところも多いそうです。当研究室の卒業生に関して言えば、研究で培った技術や知識を期待されて就職する者もいます。MからDへ進学する学生は専攻では年に数人いるそうですが、当研究室では私が十年ぶりだそうです。現在、当研究室に在籍しているD生は社会人ドクターが多く、OBや共同研究先の企業に在籍される方、また当研究室を勧められて入学なさった方もいます。

研究のやりがいは?

他に例のない研究を自身の手で行い、将来的な構造物のシミュレーションの発展に寄与できることでしょうか。先行研究の少ない研究であるため、何をするにも自分次第です。どういう方向に進めるか、どういう方法を採るか、その都度計画を立てて手法の開発を行っています。自身の考えに基づいて選択した方法や考え出した方法を組み込み検証することで、より高精度なシミュレーションを実施できる手法へと近づけてきました。その過程で様々な問題に直面してきましたが、真摯に取り組むことで最終的には結果につながり、達成感や経験に基づく自己の成長などが得られました。

今後のご自身の展望は?

これまで行われてきた多くの基礎・応用研究による知見が様々な技術を支えていることは事実ですが、研究活動というのはそれ自体が目的になっているように感じます。これはあくまでも個人的な感じ方ですし研究する分野によっても違うでしょう。研究のやりがいというのも前述のとおり自分の思うところはありますが、私はそれ以上にお客さんを相手にして喜んでもらえるような仕事をしていきたいと考えています。これまでの研究活動で得られた知識やノウハウはそのためのツールとして活用していきたいと思っています。D修了後は、企業に場を移し、現在の研究環境よりもエンドユーザーに近い位置でユーザーのサポートやソフトウェアの開発を行っていく予定です。

写真:貞本将太さん

(注1)広島大学工学部第四類(建設・環境系)輸送機器環境工学プログラムにおける特色ある取り組み「輸送機器工学課程・輸送機器環境工学プロジェクトII(ペーパービークルの設計・製作)」について
http://eng4.hiroshima-u.ac.jp/vesp/characteristic.html
http://pbl.naoe.hiroshima-u.ac.jp/pvp/

(注2)ペーパービークル2007年度プレゼンテーション資料(貞本さんは三班所属)
http://pbl.naoe.hiroshima-u.ac.jp/pvp/presen/2007/

 

取材者:志田 乙絵 (文学研究科人文学専攻 日本・中国文学語学コース 博士課程前期1年)


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