第4回 工学研究科 D3 中野 正浩さん

写真:中野さん

広島大学大学院工学研究科 応用有機化学研究室訪問(瀧宮研究室)

取材実施日:2013年2月13日

第4回研究室訪問は、工学研究科の応用科学研究室を訪問し、博士課程後期(D)3年中野正浩さんにお話を伺ってきました。

Q:研究内容はどのようなものですか?

トランジスタ、つまり有機半導体材料をつくっています(注1)。通常は無機でつくられる素材を、金属などではなく有機的なものでつくり、金属と比較して軽い、柔らかい、安い、などの特徴がありますが、まだ柔らかさや価格には課題が残ります。この研究とは少し異なるのですが、実用例としてはサムソンがスマートフォンのディスプレイに有機ELを使用しています。
具体的には、トランジスタの元の材料を有機化合物、いわゆるフラスコを使用して混ぜたり熱したりして新しい材料をつくります。研究テーマのメインは有機合成ですが、研究プロセスが非常に広く、まずは有機合成し、そこで合成された素材の特性の計測、そして電子素材としての応用という三段階があります。研究室ではこれら全ての工程が実験可能ですが、私の研究では有機化合物の合成を主に行っています。
私の一日の流れは、朝9時頃に実験室入りし、日にもよりますが合成にかかります。その合成の待ち時間に解析をしたりトランジスタをつくったり論文をまとめたりといった細かい作業をし、それから夕方頃に朝仕込んだものを取り上げます。日々新しい研究を始め、日々それに対する結果が出ますが、数が欲しいなどの理由で以前成功した研究を繰り返すこともあります。成功を実感するのは合成がうまくいった時や、実際にトランジスタでつくっていい特性が出た時です。
有機エレクトロニクスや太陽電池も同様の有機体を使用してできる実験で、研究室でも行っています。それらの特性、すなわちどれだけ早く電子が流れるか、どれだけの変換効率を出せるのか(太陽の光をどれだけのエネルギーに変えられるのか)と いったところで世界のチャンピオンデータを目指して常により良い値を求めています。

(注1)有機FET(有機電界効果トランジスタ)とは、これまでシリコンなどの無機材料で作られていたトランジスタを有機分子を用いて作製するものです。実現すれば、無機材料にはない「柔らかな」電気機器、例えば電子ペーパーやフレキシブルディスプレイ、また人体へ埋め込み可能なバイオチップなどが可能になります。(広島大学大学院 工学研究科 応用科学専攻 応用有機化学研究室、http://ikeda-lab.p2.weblife.me/

Q:研究を始めたきっかけは?

小学校の中学年頃から理科が好きでした。リトマス試験紙やアルコールランプなどを使ったことなど実験のことはよく覚えていますし楽しかったです。大学進学時には、高校時代の担任の先生に勧めていただいて理系に進学しました。高校では理系の科目に特に興味を持って取り組んでいたからかもしれません。
もともと岡山大学で化学を専攻しており、現在の研究と同じく有機合成を扱ってはいましたが、光反応など今とは違う内容でした。修士を取得した後に就職先が決まっていたこともありいったんは就職し、仕事自体はとても面白かったです。ただ瀧宮先生の下で研究がしたいという思いが消えず、仕事を辞めて広島大学のDに進学しました。
先生とは修士課程二年目の二月に所属研究室にお見えになった時に初めてお会いしました。「(その当時開催されていたオリンピックに引っ掛けて)オリンピック競技で世界一をとるのは難しいが、学術の分野での一位はさほど難しくない」とおっしゃった言葉に感銘を受け先生の研究室への進学を考えるようになりましたが、当時すでに瀧宮先生の研究室はすばらしい素材(DNTT)の合成に成功されて世界一の値を出されていたので、言葉に説得力がありました。

写真:中野さん

Q:博士課程取得後は?

この春、博士課程を2年半で終了できることになり、新年度からの学術振興会の助成を受けることも決まっているので、4月からは理化学研究所で研究を続けます。そこでの研究や進捗に応じて最善の選択をしたいと思っています。

Q:研究室の特色は?

ゼミのスタイルは、1か月だったり1週間だったり期間は色々なのですが、その間行った研 究内容をレジュメにまとめて全員に配ります。基本的に学部から院生まで全員参加です。研究室にいる時間が長いので時間を決めて一緒に生協で食事をとるなど 学生同士のつながりは密です。基本的には上の学生が下の学生の面倒を見ます。
実験室は三つに分かれており、各部屋には研究内容が近い学生が学年ごとに分散して所属しており、Dはそれぞれの部屋に1人ずつ居ます。それぞれの研究室で3つの過程すべてをこなすのでやることはかなり多いです。
指導教官である瀧宮先生は向上心の高い方で、学生の研究結果にもさらに上を求めます。研究テーマは瀧宮先生からいただくことが多いですが、こちらから提案することもあります。

Q:卒業生の進路は?

修士で就職する学生が多いですが、就職先は化学系素材メーカーや材料系の会社などの研究職や技術職があります。先輩がリクルーター的なかたちで研究室にいらっしゃることがあります。現在瀧宮研究室に所属している学生は全員進路が決まっています。

Q:研究環境については?

研究費については、学生自身が取得する学振や、各先生の助成金があるので不自由はありません。研究費を使って国内外の発表に行く機会もあります。昨年はアトランタ、京都、東京で発表をしました。アトランタでは広い分野で研究をされている方々と交流が持てましたし、京都でも同じような研究をしている人たちと話をすることができました。印象に残っているのは、その時の合同発表終了後に学生2名が真剣に質問をしてくれたことです。彼らは以前から瀧宮先生の研究に注目しているとのことでした。
研究機材も十二分に揃っていると思います。今はほぼこの研究室で実験が完結するのです が、学内の他の研究室に機材を借りに行くこともあります。また、学内で共同研究を行うこともあり、今は理学部の研究室と人工肺プロジェクトが進行中です。 共同研究の良さは、自分の研究室だけだと出てこない発想なり研究手法であったりを知ることができたり、そう言った今までとは違う方法で結果を出して行けた りすることです。
逆にマイナス面としては研究に対する温度差があることもあるかもしれませんが、個人的には感じたことがありません。企業とも合同研究して おり、この研究室で合成した化合物を企業に使ってもらって応用可能であるかを調べます。

写真:中野さん

Q:今後の展望は?

目標としては、瀧宮先生のような研究者に、せめて足もとに及ぶような研究者になりたいと思っています。研究に従事する形はどんなものであってもいいと思っています。それぞれの環境で制約などの違いはあるでしょうが、それなりのやり方があると思っているからです。大切なのは実験、研究ができることです。

今後博士課程後期進学を目指す人へ

僕自身は博士課程で研究以外に研究に対する姿勢を学びました。ある結果が出てもまだ何かないかと食らいつく、そういう姿勢です。博士課程の期間でしか学べないことがそれぞれにきっとあると思います。
現在修士課程に在籍中で進学を迷っている方に対しては、行くなら早く行った方がいいと伝えたいです。単純に年齢が上がるといろいろなしがらみなどで博士号がとりにくくなってしまうのではないかと思います。例えば、就職すれば経済的に安定しますし、普段の生活においても残業があるとはいえ大抵は9時ぐらいには帰宅できる規則的な生活が手に入ります。けれどそうしたプラス面よりも研究に魅力を感じ情熱を傾けることができる方は、是非進学されるといいと思います。
博士課程で研究することは楽しいですし今後の為にもなると思います。瀧宮研究室は世界と勝負しているので、できるだけよい材料を使ってなるべく高い性能を出してゆくことに日々挑戦しており、そういうことに私自身は研究の楽しみを見出しています。研究や実験が楽しい人はぜひ進学されたらいいと思います。

写真:中野さん

取材者:栗村 法身 (文学研究科 哲学・思想文化コース 博士課程後期2年)


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