第9回 医歯薬学総合研究科 D3 上村 有加さん

写真:上村有加さん

取材実施日:2013年6月11日

第9回研究室訪問は、医歯薬学総合研究科 薬学専攻 創薬科学講座 生薬学研究室(松浪研究室)の博士課程後期(D)3年、上村 有加(うえむら ゆか)さんが取材に応じてくれました。

研究を始めたきっかけは?

幼い頃から何らかの形で人の役に立ちたいと漠然と思っていましたが、小学生の頃に祖父が病気で亡くなり、医療系の仕事をしたいと思いました。しかし、私は人の血を見るのが苦手なので、医者や看護師には向いていないと気づき、その後薬剤師という職業も知りました。
また、中学生の時から数学や化学、生物などの理系科目が好きで、漢方薬に興味を持ったこともあり、薬学を勉強したいと思うようになりました。直接目の前にいる病気で苦しんでいる人や困っている人をケアしたいという想いも強くあったので、薬学の道を選び、現在の研究まで至っています。

研究内容はどのようなものですか?

医薬品として使用されている化合物には天然に由来するものが多くあります。そのような天然物の成分研究として、化合物の構造を解析し、その薬理活性を調べることが私の研究です。現在は特に琉球諸島に分布しているモクレイシ(学名:Microtropis Japonica)材部と奄美大島以南に分布しているヤンバルアワブキ(学名:Meliosma pinnata ssp. arnottiana)葉部を中心に、複数の植物サンプルについて新規有用化合物の発見を目指しています。
研究の方法は、植物にどのような成分が含まれているかを調べ、それを化合物単品、一つの化合物になるように各種クロマトグラフィを用いて分離・精製します。また、単離した化合物についてNMR(Nuclear Magnetic Resonance/核磁気共鳴)等のスペクトルデータを解析し、その化学構造を決定します。その後構造決定した化合物について薬理活性試験を行い、有用性を探索しています。

先生の指導方針や研究室の特色はどのような感じですか?

現在所属している研究室は、研究がいくらでもできる環境です。先生は学生を信頼して研究の方針を個人に任せていますが、相談したい時はいつでも一緒に考えて下さいます。また、生薬学研究室はHPLC (High Performance Liquid Chromatography/高速液体クロマトグラフィー) 等の実験で必要な実験設備も充実しています。学内の研究活動はもちろん、国内・海外での学会発表なども行きたいと思えば参加することができ、様々な方面からのサポートが充実しています。
また、私は任された植物のエキスの分析等は基本的に全部一人で行っています。実験を最初から最後まで一人で行うのは色々なことが体験できて楽しいし、勉強になります。その際、上級生が必要な実験操作を全て知っているという訳ではなく、下級生の方が経験していて詳しいこともあります。学年関係なくお互い教え合い、学び合うというのが研究室の特色です。

写真:上村さんと研究室のみなさん

就職はどのような方面にされる方が多いですか?

カリキュラム改訂以前は学部で4年間学んだ後に薬剤師の国家試験が受験できたので、一部は学部卒業と同時に薬剤師として就職していました。残る大部分はM進学の後、企業に就職したり、薬剤師として病院や薬局に就職したりしていました。改定後は薬剤師の資格を取得できる6年制の学生は病院・薬局の薬剤師、研究中心の4年生の学生はM進学を経て、やはり製薬会社等の企業の研究職等に就く事が多いです。しかし、卒業生の中には公務員として活躍されている方もいますし、6年制の卒業生で企業の研究職に就いた学生等もいます。D修了生では大学で研究を続けている方が多い印象です。

研究のやりがいは?

国際学会や研修を通して同じ研究分野の人と交流したり、海外の研究室を訪問したりすることがあり、貴重な経験となりました。同じ研究分野であっても、アプローチの仕方や求める結果は様々です。特に国が違えば、そのベースとなっている文化や歴史も違うため、その差はさらに大きくなります。現地を直接訪問し、他国の先生方や学生の方と交流したことによって重要とされる研究方針の違い等を認識できました。
他を知る事は、自分自身や自らの研究を見つめ直す良い機会ともなります。研究とは一つの事を突き詰めていく事ではありますが、異なる視点から見る事で気付く事も多いと思います。Dの学生に限りませんが、視野を広げるためにも研究はもちろん、他者との交流もしていってもらいたいです。

写真:研究室の卒業パーティー

女性研究者としての心構えは?

周囲でDまで進学している学生は多くはないので、不安なこともあります。また、日本社会は女性が仕事を続けていくには難しい部分もまだまだあると感じる事もあります。人生には多種多様の選択肢があり、考え方も人それぞれですが、私はやはりできる限り研究を続けたいです。Dに進学する時点でそういった覚悟は決めていました。私はDに進んで取り組みたい研究ができているので、進学して良かったと日々感じています。
何事も、行動しなければ「すれば良かったかも」と後悔しか残りませんが、行動すれば得られることが必ずあります。直接的ではなくてもいつか何らかの形で役に立つと思うので、どんなことでも挑戦していきたいです。

Dを目指す学生へのメッセージ

Mよりも研究成果が求められるので大変な時もありますが、諦めずに取り組んでほしいです。また、結果が求められるが故に周りが見えなくなることもあるかもしれません。でも目先のことだけにとらわれず、実験操作一つ一つの意味や背景を考え、視野を広げることが研究成果につながることも多々あります。例えば、私は忙しい時に後輩指導などの仕事が重なることもありますが、それを嫌々やるのではなく主体的に取り組むようにしています。スケジュール管理や複数のことを同時に進められるようになることは、どんな分野であれ将来の役に立つと思います。更に何より、色々なところに学びのチャンスはあるので、何事にも挑戦し、どんな事からも学ぼうとする姿勢も忘れずにいてほしいです。

ご自身の今後の展望は?

研究はこれからも続けていきたいです。研究は企業でもアカデミックでも続けることができるので、選択の幅は広いです。しかし、アカデミックで就職する場合、基礎的な研究に携わる場合が多く、患者さんと直に接する機会はあまりありません。やはり直接に人の役に立ちたいので、企業等で患者さんと直接関わることができる分野に進みたいです。
薬は最終的に完成するまでに、少量でも不純物が混じっていれば、危険な場合もあります。人を助けるために作られた薬が逆に毒になるのです。患者さんの手元に安心して使用できる薬が届けられるよう、薬の品質に関わる仕事にも興味を持っています。これまで行ってきた研究や経験が将来の仕事に活かせられるように頑張っていきたいです。

写真:研究資料と上村さん

取材者:Nuria Haristiani (教育学研究科 文化教育開発専攻 博士課程後期3年)


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