第13回 医歯薬保健学研究院 D3 猪村 剛史さん

写真:猪村剛史さん

取材実施日:2013年10月23日

第13回の研究室訪問では、広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 生体環境適応科学研究室(弓削研究室)の博士課程後期(D)3年の猪村剛史(いむら たけし)さんが取材に応じてくださいました。最先端の再生医療について、理学療法士として働きながら研究をされている猪村さんに、研究のやりがいやD進学へのきっかけなどを伺ってきました。

研究を始めたきっかけは?

理学療法士養成過程での学習やそこでの実習を通して、リハビリテーションの専門家とはいっても、中枢神経疾患後の後遺症のある方達に、充分な支援が出来ないことにもどかしさを感じました。そのような時に、最先端の技術に興味が湧き、中でも現実的な治療法として再生医療に注目し始めました。しかし、体外で作り出した新しい細胞を移植しただけでは、十分に回復しないのではないかという素朴な疑問が浮かんできました。そこで、この疑問を検証するため、卒業後すぐに臨床には出ずに、広島大学の修士課程へ入学しました。そして、再生医療とリハビリテーションに関する研究を始めました。

研究内容はどのようなものですか?

iPS細胞のノーベル医学生理学賞受賞で注目されている再生医療と、細胞移植後のリハビリテーションについての研究をしています。特に私は、脳卒中や脊椎損傷といった中枢神経疾患に対しての再生医療を中心に研究しています。
再生医療とは、iPS細胞などの万能細胞を用い、体外で作りだした新しい細胞を移植する治療法です。しかし、ただ移植するだけで良くなるとは限りません。その移植した細胞に対し、今まであった脳の環境に適応させるような教育が必要です。そのための手段として、リハビリテーションが挙げられます。実際に、細胞移植をしただけのマウスと移植後にリハビリテーションを行ったマウスを比べると、リハビリテーションを行ったマウスの方が、明らかにその後の運動機能の回復が良いという結果がでています。しかし、脳の中で何が起きているのかという詳細な回復のメカニズムはまだまだ把握できていません。また、現段階ではリハビリテーションといっても、細胞移植後にマウスを走らせるだけといった単純な運動による効果しか検証できていません。今後、臨床現場に応用していくためには、ヒトならではの高度な運動による効果も検証していくことが必要です。

研究のやりがいは?

私の研究室では、弓削教授の方針もあり、国際学会での発表や国際誌への投稿など国際的な活動をする機会があります。そのような場で、自分の研究を国内だけでなく、国外にも発信していけることに喜びを感じています。
先日は、私の論文が国際誌に掲載されてすぐに、著名な英国の研究者からご連絡があり、ご助言や激励をいただくことができました。このように、自分の研究を発信したことで、著名な研究者を含め、世界の誰かが見てくれることに喜びを感じました。

写真:アメリカのサンフランシスコで行われた学会での一枚

先生の指導方針や研究室の特色は?

先生の指導方針は、学生に決められたテーマを与えるというよりも、学生にのびのびと自由に研究をするように促すことです。自由と言っても、自分勝手に研究をするという意味ではなく、自分のやりたい研究テーマについて、色々な人から助言を受けながらも、正しい方向に進めていける計画を立てた上での自由度です。また、一人ひとりが複数の研究テーマを進めているため、学生は毎日研究に取り組み、日付が変わるまで実験を行うことも少なくありません。
研究室の雰囲気は、弓削教授の人柄のおかげか、とてもなごやかです。時には、研究室内のメンバーで鍋をして盛り上がることがあり、飲み会も多いです。そのため、ただ真面目に研究に取り組むだけではなく、その中で息抜きをいれるなど、メリハリのある研究室だと思います。また,留学生も多く国際的な研究室です。

写真:猪村剛史さん

研究環境はいかがですか?

弓削研究室の研究課題の多くは、文部科学省による科研費や国プロ等、複数の研究費を獲得しています。その他に、脳神経外科を始め、他の教室と共同で行っている研究もあり、多くの研究支援体制のもと研究をできる環境です。ただ、現時点では、研究室の人数に対して部屋が少し狭いことについては不便さを感じています。

就職はどのような方面にされる方が多いですか?

国立研究所等アカデミックな研究職に就職する人もいれば、企業の研究職に就職する人もいます。また、学生の多くは理学療法士でもあるので、大学の教員や病院で理学療法士として働く人もいます。

D進学の決め手は?

Mの時に、もっと中身の深い研究を行い、より良い研究を世界に発信していきたいと思いました。また、博士の学位を持っているということは、科学的に研究を行える証であり、自分の将来にとって間違いなく役に立つだろうと考え進学を決めました。

今後のご自身の展望は?

再生医療は今後飛躍的に発展していくと思います。その中で、リハビリテーションの分野に携わっている私も最先端の技術にしっかりとついていき、再生医療にはリハビリテーションが不可欠なことをアピールしていきたいです。このようなアプローチは、中枢神経疾患を患った患者へのより良いサポートに繋がるでしょう。将来的には、研究職や大学教員への道も視野に入れています。

写真:猪村剛史さん

取材者:杉江健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期1年)


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