第22回 工学研究科 D1 平川 翼さん

写真 平川さん

取材日 2015年2月20日

第22回研究室訪問は、広島大学大学院工学研究科 情報工学専攻の博士課程後期(D)1年、平川 翼(ひらかわ つばさ)さんが取材に応じてくれました。画像解析の技術を病気の診断に用いるという画期的な研究をされている平川さんに、研究内容やD進学の決め手などを伺ってきました。

現在の研究内容はどのようなものですか?

大腸内視鏡画像の領域分割手法の開発が、私の研究テーマとなります。この研究は、大腸癌診断支援システムの構築を目的として広島大学病院の先生方と共同で研究を行っており、そのプロジェクトの一員として領域分割の研究を進めています。領域分割とは、画像内の意味合いに応じて、各領域を分割することです。例えば、人物の画像を意味合いに応じていくつかの領域に分割することで、画像内のどの部分が顔であり、どの部分が髪の毛となるのかを判断することができます。私の研究では、その領域分割を内視鏡で撮影された大腸の画像に対して行うことで、大腸内にある正常な部分とガンの部分を区別しようと考えています。
どうして大腸癌という病気に注目しているかというと、大腸癌による死因率は日本で3位と高い病気なのですが、早期癌であれば完治する可能性が高いとされているためです。そのため、定期検査による早期発見が重要です。大腸癌の検査方法はいくつかありますが、内視鏡を用いた検査が一般的とされています。しかしながら、内視鏡を用いた大腸癌検査には、内視鏡を操作するための熟練した技術が必要であり、癌の診断には医師の経験や主観というものが介在してしまいます。比較的難しい検査であり、常に安定した診断を行うことができるとは限りません。そこで、客観的に、常に一定の診断を行うことができるシステムを作ることで、少しでも医師にかかる負担を減らすことができたらと考えています。

大腸がん画像

研究を始めたきっかけは?

多くの方と同じだとは思いますが、研究室配属をきっかけとして始めました。私は高校時代に大きな病気を経験したことから、工学の道へ進んだものの医学にも興味があり、医師や患者さんを助けることが出来る物を作りたいと考えていました。そのため、研究室配属の際に医療応用に関わることができる今の研究室を選択しました。私の所属している研究室では、配属された後にいくつかの研究テーマが与えられ、その中から選択するという方法で自分の研究テーマが決定されます。その中でも、医療応用が可能で、面白そうだと感じたことから現在の研究テーマを志望し、現在も同プロジェクトで研究を行っています。

D進学の決め手は?

研究室に配属されたばかりの時は、Dへの進学は考えておらず、就職しようと考えていました。しかしながら、研究を実際に行っていく過程で、研究の難しさと同時に面白さを感じることができました。そして、修士の1年の終わりごろの就職活動を始める時期に、改めて自分はどうしたいかと考えた結果、研究を続けて研究職に就くことを選びました。
また、B4から続けているこの研究プロジェクトを修士で離れてしまうと、中途半端な状態で研究が終わってしまうと考えたため、今まで行ってきた事をまとめるためにもD進学を希望しました。

先生の指導方針や研究室の特色は? 

指導教員の先生とは定期的に密に話し合うことで研究を進めています。指導教員とのやり取りには基本的に決まった時間というものは無く、研究の進み具合に応じて指導教員とアポイントメントを取り、ディスカッションを行っています。それ以外に研究室全体で行うゼミが定期的にあり、研究の成果を報告する研究報告会や最新の研究動向を把握するための論文を紹介するためのゼミ、時期によっては卒論や修論の発表練習を行っています。
また、研究室内でのイベントは事あるごとに行っています。新歓や追いコン、忘年会等はもちろんですが、毎年、夏には研究室内の学生でキャンプに行きます。最近では、研究室のOBも参加して旅行に行く事もあり、研究だけでなくプライベートでも充実した学生生活を送ることが出来る研究室です。

写真 診察室

研究環境はいかがですか?

私の研究では大掛かりな装置等は必要無く、パソコンがあれば場所を選ばずに行うことができることから、研究に必要な機材に関しては特に問題を感じた事はありません。研究の進め方については先で述べた通りですが、Dに進学した事で修士までよりも、自由に研究に取り組むことが出来るということもあり、現在の研究環境には満足しています。
また、医療応用の研究を行うにあたって難しいとされるのは、お医者さんとどうコミュニケーションを取っていくかだと思います。私たちのプロジェクトでは定期的にミーティングを行うことで密に議論する事が出来ていると思いますし、研究に必要な画像等のデータも十分な数を提供していただいています。このような側面から見た場合でも、十分満足の行く研究環境だと考えています。

今後のご自身の展望は?

現在の研究テーマについては、内視鏡画像の領域分割が適切に行えるだけでなく、医師の方々が使いやすいようなものにすることまでを目的としています。領域分割については良い結果がえられていないという現状があり、今までとは別のアプローチをしようと考えています。そのため、今年の4月中旬から、少し前から交流のあるフランスのパリ東マルヌラヴァレ大学で、領域分割に関する専門家と共同で研究を行う予定です。既に3カ月ほどその大学へ留学し、研究の方向性や前準備をしました。次回の渡仏では、より良い結果が得られるよう研究を進めていく予定です。
学位取得後の進路については、学生への指導に興味があるため、最終的に大学へ残ろうかと考えていますが、D取得後は、一度現在の大学を離れて企業での研究開発や海外でのポスドクを経験したいと考えています。そうすることで現在の状況では得られないノウハウや研究の進め方を習得し、将来の研究活動へ役立てたいと考えています。

写真 留学先のパリ

取材者:杉江 健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期2年)


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