取材日 2014年9月11日
第20回研究室訪問は、広島大学大学院 社会科学研究科 マネジメント専攻の博士課程後期(D)3年、藤本 静(ふじもと しずか)さんが取材に応じてくれました。藤本さんは平成25年度に、優秀と認められる学生に対して修学費支援を行う、広島大学独自の奨学制度であるエクセレント・スチューデント・スカラシップに表彰されています。会社に勤めながら研究をされている藤本さんに、現在の研究内容や社会人を経験した上での大学について伺ってきました。
現在の研究内容はどのようなものですか?
企業に対する消費者の行動について研究をしています。私の研究分野は、マーケティングや消費者行動に関する分野になります。従来までは、企業と消費者の間には距離があり、商品の価格、チャネル、プロモーション等を駆使して活用商品を販売していました。
しかしながら、近年のIT技術の発展を背景に、企業と消費者の距離は近づいています。インターネットを通して、地理的に離れていても購入できるようになりました。また、ソーシャルメディア等を通して、企業と消費者の関係がより対等なものとなりました。それに伴い、企業だけでなく、消費者の行動も変化しています。例えば、経済的な利益は無くても、様々な形で製品開発に協力する消費者が増えています。この例にみられるように、消費者と生産者の境が曖昧となっており、消費者と企業が一緒に歩んでいこうとする風潮ができつつあります。今後、消費者の行動がどのように変化していくのかを明らかにしていきたいです。
研究を始めたきっかけは?
現在の研究テーマと学部のころに学んでいた分野は全く違います。学部時代は広島大学の生物生産学部に所属し、いわゆる理系の分野を学んでいました。当時も院に進学することを考えはしましたが、就職することにしました。初めは学部で学んだことを活かせる環境調査に関する会社に就職し、私は海洋開発部に配属されました。その部署では、海を埋め立て、波止場を作るような業務を行っており、その一環として海の環境調査を行っていました。そこで、海洋の調査だけでなく、開発完成予定図をCGで作成する仕事にも関わることがありました。この経験を経て、CG作成に興味を持ち、CG制作会社に転職しました。
CG制作会社に転職することはできたのですが、日本が不景気だったこともあり、その会社ではCGを作る仕事が減らされている時期でした。そのため、転職したのは良いものの、CG制作ではなく、当時流行っていたウェブプランニングに関する仕事をするようになりました。ウェブプランニングの業務は、ただウェブサイトを制作するだけではなく、お客様の企業がマーケティングの上でネットをどう活用すべきなのかを提案する必要があります。しかし、学生時代にマーケティングに関する勉強を全くしていない私が、コミュニケーション能力の高い人や専門的な知識を持っている人が周囲にいる中で、職を守っていけるのか不安でした。責任を持って仕事を行う上で、自身の強みを手に入れるために、勉強をし直したいと思いました。
D進学の決め手は?
大学院に入学した当初は、目的は研究することよりもむしろ、ビジネススクールのように、専門知識を得ることを目的としていました。しかし、大学院は学びにくる場所ではなく、自分で問いを立て、その問いを解決する場所であると知りました。思っていたものとは違ったのですが、真剣に考えることを無駄にしない世界だと感じ、とても魅力的に感じました。とはいっても、学部では生物学を専攻していたため、先行研究のレビューの仕方も分からないほど、この分野の研究とはどんなものか分かりませんでした。そのため研究の面白さに気付いた時には、既に修士課程修了まで残り半年しかありませんでした。今後の進路がどうなるかは不安でしたが、もう少し研究を続けたいと思ったため、D進学を決めました。
先生の指導方針や研究室の特色は?
私の所属する研究室では、先生と1対1で行う個別ゼミがあります。そのため、先生とFacebookでやり取りをした上で、面談のアポイントメントをとっています。また、月に1度、英語の論文を紹介する文献研究会と1年に数回、修了生を含め研究室のメンバーが全員集まる全体ゼミもあります。
先生は学生の面倒をとても丁寧に見てくださいます。私がきちんと発表できる状態ではなく、こんなにふわふわした考えでご相談したら迷惑なのではないかと思うような場合でも、先生は真剣に考えていただけます。頭の中で漠然と考えていることでも、先生から様々なご指摘をいただけることにとても感謝しています。
修了後の進路はどのような方面にされる方が多いですか?
社会人を経験した上で改めて、大学院に入学される方の進路は大きく2つに分かれています。1つは大学教員や研究者になる場合です。もう1つは、仕事は変えず、同じ企業内でのキャリアアップや部署異動などをする場合です。この2つのどちらかの進路を選ばれる方が多い印象があります。
研究のやりがいは?
私が学部の時に研究していた微生物の分野では、フラスコの中の閉じられた実験系で、実験方法や解析方法の手順がかなり決まっており、数値で明確に示すことができました。しかし、いわゆる文系の研究では、理系の研究と比べて明確な結果を示すことは難しいです。そのため、より一層論理的な文章を組み立てることが必要です。1つ1つの言葉の裏にある背景を理解しながら、文章を組み立てていくことにやりがいを感じています。
また、社会で働いていく場合、「利益が出るのか」ということやスピードが大切なため、1つのことを深く考える機会は決して多くありません。研究に関しては、どれだけ考えても先生からは「考えが足りない」と言われます。考えることを大事にしていることは、私にとってはとても新鮮です。
研究の世界は、自分の意見をはっきりと言うことができ、周りの人たちも自分の意見をちゃんと聞いてくれる場だと感じています。学会で発表することにも、質問をされることにも未だに不安があります。しかし、質疑応答を通して、お互いが冷静に議論を行うことで、新しい考えが生まれてくることはとても楽しいです。
今後のご自身の展望は?
私が最も理想の形で目指しているのは、研究1本で生活できるようにすることです。それは簡単なことではないと感じています。学部を卒業して大学院に入るまでの間に長いブランクがあることや、今も会社に勤めながら研究を行っているため、研究に費やす時間が少ないことは、他の研究者を目指す人と比べて劣っている部分かもしれません。しかし、生物学の分野を学んでいたことや、大学内だけに留まらず社会人として働いてきたことで、色々な世界を少しずつ齧ってくることができました。この経験が自身の強みとして活きてきたらいいなと思っています。
取材者:杉江 健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期2年)