第10回 理学研究科 D3 中田 亮一さん

写真:中田亮一さん

 取材実施日:2013年7月16日

第10回研究室訪問は、地球惑星システム学専攻 地球惑星システム学講座 表層環境地球化学研究室の博士課程後期(D)3年、中田亮一(なかだりょういち)さんが取材に応じてくれました。希土類元素の安定同位体の研究を通して生命の歴史に迫っている中田さんに、研究のやりがい等色々と伺ってきました。

研究を始めたきっかけは?

私は愛知県出身で小さい時から東海地震が来ると言われていたので、入学した時は地震の研究がしたいと思っていました。化学は苦手でしたが、学部の講義で先生が希土類元素(REE)パターンについて説明され、パターンの形が違うだけで様々なことが言える面白さに出会いました。一見簡単そうなのに多くのことが言えるという魅力に惹きつけられ、苦手意識のあった化学について興味を持つようになり、希土類元素について深く研究したいと思いました。

研究内容はどのようなものですか?

現在は主に希土類元素の安定同位体について研究しています。
私たちは大気中に約20%存在する酸素がなければ生きていけませんが、地球の歴史を振り返ってみると、大気中の酸素濃度は約23億年前までは現在の2万分の1以下で、約21億年前からは現在の10分の1程度であると言われています。しかし、その間の2億年でどのように酸素が増えたのかについてはよく分かっておらず、23億年前の酸素濃度と21億年前の酸素濃度を結んでいるに過ぎないのが現状です。
これまで過去の大気中の酸素濃度を推定する方法として様々な指標が提唱されていますが、私の研究では希土類元素の1つであるセリウム(Ce)と鉄、マンガンに着目し、酸素濃度が増加する過程での化学反応の関係性を調べています。その結果、(i) 酸素が少ない環境で生じる水酸化鉄(鉄の沈殿≒鉄サビ)へのCeの吸着、(ii) わずかに酸素が増えた環境で生じるCeの沈殿、(iii) 酸素がかなり増えた環境で生じるマンガン酸化物(マンガンの沈殿)へのCeの吸着という3段階のプロセスが、Ceの価数と安定同位体比を組み合わせることで判別可能なことが分かりました。この指標を太古代の試料など、地球規模で酸素濃度に大きな変動があった時代の地質学試料に応用することで、より精密に大気の酸素分圧を推定することが可能だと考えられます。

研究室の特色や先生の指導方針はどのような感じですか?

学生が自由にアイデアを出し、自由に研究できることが現在所属している研究室の特色です。自由と言っても、大型放射光施設のSPring-8など共同施設を利用しているので、成果を出さないといけない面もあります。しかし、同時に、研究に対する責任感が高まり、常に意識するようになっていると思います。
また、指導教員の高橋先生(注1)はD進学を考えている学生には積極的に論文を書くように指導されています。論文を書いていると、日本学術振興会(以下「学振」という)特別研究員(DC)に応募する際にも有利になります。また先輩は後輩の実験操作について指導を行い、研究テーマによっては共同で実験を行うこともあります。

写真:研究の様子

研究環境はいかがですか?

広島大学の地球惑星システム学専攻は他大学と比べて、装置がとても充実しています。研究室の器具もそうですが、専攻や学内共同利用の装置も完備されています。地球惑星の分野で広島大学はかなり業績を出しており、国内でトップレベルにあると思います。
また、研究は大学内だけでなく、他機関や他大学との様々な共同研究もしています。私の研究では、企業や他大学との共同研究をしていますし、広島大学はJAMSTEC高知コア研究所と協定を結んでいるので、同位体比の測定は高知コア研究所で行っています。共同研究もわりと自由に取り組めるため、とても満足しています。

就職はどのような方面にされる方が多いですか?

この研究室で学位を取った先輩は6名おり、その内3名は大学の助教として勤めています。他の3名は研究所や大学でPD(博士研究員)をしています。私の場合は、現在学振のDCプログラムを受けていますが、PDプログラム(博士課程修了後)にも応募しているので、それが通れば後3年間はPDで研究を続ける予定です。

研究のやりがいは?

研究結果が論文の形になり、論文が受理された時が一番嬉しいです。また、現在は模擬実験が主ですが、今後は天然試料(注2)も扱うため、生活に関わった分野で研究ができることが楽しみです。Dで研究することで、より深く専門的な知識が得られるし、研究の技術もMでする以上に身に付けられると思います。

写真:研究機器を操作する中田さん

ご自身の今後の展望は?

繰り返しになりますが、天然試料を測定して、地球の歴史をもっと詳細に明らかにしていきたいです。特に環境の面から地球を研究しているので、それが明らかになれば、次は生命の進化を制約していきたいと思います。現在人間は酸素がなければ生きていけないですが、数十億年前の地球は二酸化炭素の割合の方が多かったのです。いつどのように二酸化炭素が減少し、酸素が増加したのかを明らかにすることで、様々な生命の進化の過程や今後の予測ができます。研究を続けて、これらの現象を明らかにしていきたいです。

D進学生へのメッセージ

Dになると研究に長時間を費やすため、興味のある研究テーマや好きな研究をした方が長く頑張れると思います。また、Dに進学する場合、英語に対する苦手意識は早めに取り除いた方が良いかもしれません。研究を行う上で英語の論文を読むことは必須ですし、自分から発信することが大切なので英語で論文を執筆する必要もあります。私の場合は中学の時は英語が全くできなかったのですが、F1や洋楽が好きで見たり聴いたりしているうちに、英語に慣れることができました。また、現在所属している研究室には留学生が多く、英語を使う機会に恵まれています。苦手意識のある人は、好きな方法でいいので、英語に対する意識を変え、少しずつ慣れていくことが大事だと思います。

写真:中田亮一さん

(注1)表層環境地球化学研究室高橋嘉夫先生には以前インタビューに伺いました。先生の研究内容や指導方針についてはこちらをご覧ください。
(注2)天然試料:天然(自然界)にある試料。太古代の岩石や、現世の海底にある鉄マンガンクラストなど。

 
取材者:Nuria Haristiani (教育学研究科 文化教育開発専攻 博士課程後期3年)


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