第21回 総合科学研究科 D3 濱本 明恵さん

写真 説明する濱本さん

 取材日 2014年11月21日

第21回研究室訪問は、総合科学研究科 行動科学講座の博士課程後期(D)3年、濱本 明恵(はまもと あきえ)さんが取材に応じてくれました。脳の摂食や情動に作用するホルモンの受容体に関する研究をされている濱本さんは、国の特別研究員(DC2)や広島大学のエクセレントスチューデントなど数々の研究費や賞を獲得されています。今回は、濱本さんに研究のやりがいや進学のきっかけをお聞きしました。

研究をはじめたきっかけは?

幼い頃から虫の観察などが好きで、生物には興味を持っていました。その中でも人体については特に強い関心を持っており、「傷が治る仕組みは?」、「どうしてお腹が空くのか?」といった事が不思議でした。そのため、中高生の時はこうした疑問をひも解く「理科」がとても好きになり、大学では体内の現象について中心に学び、人に役立つような研究がしたいと思うようになりました。そんな折、大学受験で迷った時に高校の先生から教えて頂いたのが、人体を司る脳の仕組みについて勉強できる「広島大学の総合科学部」でした。実際に研究を始めてからは、「人体の不思議」の解明に携わることの楽しさと同時に、研究の計画→実験→考察のプロセスの奥深さに惹かれ、よりディープに研究したいと思うようになりました。

研究内容はどのようなものですか? 

メラニン凝集ホルモン(MCH)は脳内で作られ、様々な行動に影響を与える物質です。MCHは、「もう満腹」という摂食や「もやもやして気分が晴れない」という情動に関与します。また、このMCHの働きをブロックすると、食欲を抑えたり、うつが改善されることが知られています。当研究室では、MCHと結合して細胞内に指令を伝達する細胞膜上の受容体タンパク質(MCHR1)を発見し、その機能を多角的に解析しています。
このMCHR1は細胞外でMCHと結合した後、細胞内で他のタンパク質(Gタンパク質)と結合し、様々なシグナルを細胞の中に伝えます。この一連の過程で私が解明しようとしているのは、Gタンパク質がMCHR1のどこに結合するかについてです。MCHR1は2種類のGタンパク質(A,Bと仮称します)と結合します。興味深いことに、AとBでは、細胞内のシグナルがプラスとマイナスの様に大きく異なります。これらのシグナルが食欲やうつの起点であることを考えると、MCHR1とAおよびBの関係を明らかにし、シグナルをそれぞれコントロールすることが出来れば、副作用の少ない新しい薬の開発に繋がることも期待出来ます。しかし、それぞれのGタンパク質が、MCHR1のどこに結合するかについては不明でした。全てのタンパク質は約20種類のアミノ酸から構成されており、その組み合わせと順番でタンパク質の働きが決まります。そこで、私は新たなアプローチ法を構築し、Gタンパク質との選択的な結合に重要だと予想されるアミノ酸を他のアミノ酸に置換したMCHR1の変異体を作製しました。30種類以上の変異体を作製し、細胞内シグナルを解析した結果、片方のGタンパク質との選択的な結合に関与するアミノ酸を同定することに成功しました。

D進学の決め手は?

学部生の時から修士課程に進学することは決めていました。研究が自分に向いているかという不安もあり、もっと挑戦したいと感じたら博士課程に進みたいと考えていました。実際に研究を行う中で、計画→実験→考察のプロセスを繰り返し行い、霧が晴れて段々と真実に近付くような感覚にやりがいと面白さを感じました。加えて、教育にも興味があり、後輩達と一緒に学びながら研究をすることにより、改めて大学という場で研究を続けていきたいと強く思いました。また、知識・技術や論文作成能力などを身につけるためにも、Dに進学してアカデミックの道を目指そうと決意しました。

先生の指導方針や研究室の特色は? 

指導教官である斎藤先生は、研究に対して強い情熱をもった方です。実験至上主義と言うと語弊があるかもしれませんが、多くの実験を行い、データを積み重ねることで信憑性の高い質の良い結果に繋がるというのが研究室の方針です。また、研究室内での報告会や、他のラボと合同の論文紹介セミナーも行っており、実験技術のみならず考える力を身につける機会もあります。
また、斎藤先生と小林先生(共に研究を行っている助教の先生)は学生の指導も丁寧にして下さり、一にも二にも実験・研究が好きな人、自分の能力を高めたい人にとって、とても良い環境だと思います。加えて、研究室メンバー同士の繋がりも強く、誕生日やお祝いごとには皆でケーキを食べて祝ったりもしています。

研究環境はいかがですか?

先生方のおかげで、研究環境は十分に整っており、実験を行う際に特に困ることはありません。自分のラボに無いものは、他のラボにお世話になったり、広島大学共通の施設で実験したりと、様々な経験を積むことも出来ます。
また、自身に関して言えば、Dに進学する際、同世代の人達が既に自立している姿を見て、自分もなるべく家族に頼らずに生活しようと考えました。そこで先生方に相談したところ、企業の奨学金制度やDへの支援プロジェクト(*1)を紹介して頂きました。その多くは推薦文や研究計画などを書かなくてはならない物でしたが、親身なご指導のおかげで採用して頂きました。

今後のご自身の展望は?

研究者・教育者として大学で研究を続けたいと思っています。アカデミックは狭き門であるということは認識しています。しかし、妥協することなく、悔いのないように、「腹をくくってやれるところまでやろう」と自分の夢に向かって邁進していきたいと考えています。その過程で私の携わった研究が、将来的に医療等の分野で人に還元することができたら、この上ない幸せです。

写真 研究室の仲間と

日本学術振興会特別研究員http://www.jsps.go.jp/j-pd/
広島大学エクセレントスチューデントhttps://momiji.hiroshima-u.ac.jp/momiji-top/life/keizaishien/seisekiyushu.html

取材者:岡田 佳那子(理学研究科博士課程後期2年)


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