第12回 先端物質科学研究科 D3 河内 護之さん

写真:河内護之さん

 取材実施日:2013年9月13日

第12回研究室訪問は、分子生命機能科学専攻・酒類総合研究所  先端物質科学研究科 分子生命機能科学専攻(独立行政法人 酒類総合研究所 醸造基盤研究部門)の研究生である博士課程後期(D)3年、河内護之(かわうち もりゆき)さんが取材に応じてくれました。日本酒造りに用いられている麹菌の二次代謝制御について研究している河内さんに研究の面白さや今後の展望などについて伺ってきました。

研究を始めたきっかけは?

何らかのきっかけがあった、というよりも自分で始めたいと思って研究を始めました。学部まで県立広島大学に通っていましたが、そこでは3年生から研究をするチャンスがありました。「人の生活の役に立つようなこと」を中心に据えつつ、医薬品や農薬の開発にもつながる、植物や微生物などの二次代謝研究に関係するような研究室を選び、「ヒヨス毛状根によるファイトアレキシン生産と関連遺伝子」というテーマで卒業論文を制作しました。二次代謝とは、一次代謝と異なり生物にとって必ずしも必須ではない、微生物や植物が有する代謝機構です。我々人間からすると何の役割をしているのかわかりません。また微生物や植物でそれらの二次代謝の機能を人為的喪失させても死に至るわけではない、不思議な代謝機構です。ただ、そのよくわからない二次代謝からうまれる代謝物は、生理活性を持つ事が多く、皆様ご存じのペニシリンもそのような二次代謝産物の一つです。現在の麹菌に着目する研究テーマは、修士で広島大学に来てから開始したものですが、二次代謝の研究という部分で学部の時からなんとなく研究がつながっている気がしています。

研究内容はどのようなものですか?

現在、私たちが扱っている生物は麹菌です。最近では、塩麹などが流行し料理に重宝されています。漫画にも登場しているので一般の人にもなじみがあるかもしれません。麹菌は、お酒造りにおいて非常に大事な働きをし、お米の上に麹菌をはやした「米麹」はお酒を造る過程において酵素や代謝物の供給源として重要な役割を果たしています。そんな麹菌が、面白い二次代謝物を作ることが少しずつ分かってきました。その中には化粧品に活かせるもの、医薬品になり得るもののような二次代謝物も含まれています。最近は、その代謝物を作るための酵素が何かということが、一部のものに限ってですが明らかになってきました。その背景には、近年の技術革新があり、生物の設計図である「ゲノム情報」やそこから生み出される全転写産物を容易に解析できるようになったことなどが挙げられるでしょう。麹菌の二次代謝制御の研究環境もいい意味で急速に変化しています。従来よりもいろいろなことが素早く解析できるようになりました。
私は、このような化粧品や医薬品研究にもつながるような二次代謝物の生産制御を研究しています。基本的には麹菌の遺伝子改変を行い、その改変した麹菌による二次代謝物の生産を解析し、二次代謝生産に影響する遺伝子を探ります。現在は、そのようなプロセスの中で見つかった二次代謝制御に影響する特定の遺伝子群に着目しさらなる研究を行っております。

写真:研究の説明をする河内さん

D進学の決め手は?

先に述べたように、学部の時は別の研究テーマを扱っていました。Mからご縁があって広島大学の先端物質科学研究科に進学し、同時に酒類総合研究所で研究生を始めました。(注1)
もともと研究者になりたいと思っていたので、D進学の決め手そのものは無いかもしれません。  

先生の指導方針や研究室の特色は?

研究所なので、達成しなければならない課題は決まっています。そのため、最初はそれに合わせて岩下先生がテーマ構築をします。そのテーマからどのように研究を進めていくか、論理的に課題に対しての答えを見つける手法などについては徹底的に学生に考えさせる方針です。達成しなければならない課題のほかにも、自分でテーマを立て、それに対しての理由づけを論理立てて出来れば、非常に自由に研究を行うことができます。
月に一度、研究連絡会があり、それに向けて各々が研究を進めていきます。また、先生側から進捗具合を聞かれるときもあります。疑問点などは随時指導教員に尋ね、ディスカッションを行うこともできます。
研究所内で見ると、部門やグループをまたいで共同研究を行っている人も居ます。自分たちでお酒造りをすることもあるので、そのような人出のいるものは共同作業です。外部の方と共同研究している方もいらっしゃいます。
酒類総合研究所には、毎年三人の学部生が配属されます。ただし研究室の特色として、学部生は研究所内の研究室に対して一人しか配属されません。彼らを研究室で囲むのは複数人のM生、D生、非常勤の職員、研究員、指導教員です。この環境は非常にアドバイスをしてもらいやすい良い環境だと思います。充実した研究生活を送れるでしょう。M生については、学部からの持ち上がりや外部からの入学者がいます。

写真:岩下研究室麹造りの様子

研究環境はいかがですか?

器具類や機械類は非常に揃っています。通常の大学では持ちえないような機器が多く、環境面においても自由度が高いです。研究テーマの自由度と合わせると、他の大学では出来ないような研究を行うことが出来ます。
環境の良さからも伺えますが、研究費も潤沢であると思います。必要なものが用意できないということは滅多にありません。そもそも揃っているので、メンテナンスをして試薬を用意すればどのような実験もできます。
また、海外発表のときには旅費を全額支給していただけました。これは研究室の研究費に加え、先端物質科学研究科からの助成(注2)がありました。先端物質科学研究科では海外派遣制度を設けており、海外発表において大変助かりました。

海外発表を行った時の印象は?

前述の通り、先端物質科学研究科からの助成を受けてMの時にオランダへ、Dに進学してからはアメリカへ行き、発表を行ってきました。現地の大学で研究室見学を行うことは出来ませんでしたが、世界にも自分の研究分野についてこれだけの研究をしている方がこんなにも居るという状況を実際に見られたことと、自分が知らないような非常に高度な研究をやっている方を間近で見ることができたのは大きな収穫です。日本国内でも、良い研究を行っている方はいらっしゃいますが、海外の学会へ参加すると、世界中から研究者が集まっているため規模が一段も二段も違います。そのように大きな規模、世界標準の規模を体感できたことはいい刺激になっています。

写真:アメリカの学会にて質疑応答に応じる河内さん

就職はどのような方面にされる方が多いですか?

学部生の多くはMへ進学します。Mの就職先は様々ですが、お酒関係を始めとして食品メーカーに就職する学生が多いです。その他、公務員になる学生もいます。D生は、研究所内で進学する人は少ないので就職先はあまりわかりません。

研究のやりがいは?

研究テーマの立案から方法、考察に渡るまで全ての過程を自分で自由に考えていけるところです。
また自分の考えを実験によって表現していくことが出来るのも、醍醐味のひとつです。そして、その実験結果を、時としては世界で初めての発見を、自分の目で確認することができることが何よりの喜びです。それはもう、中毒になってしまくらいに魅力があります。

写真:パソコンを操作する河内さん

今後のご自身の展望は?

卒業後もアカデミックに残り、まずは海外で修行をしてきたいです。そして国内で活躍できる人材になれればと考えています。世界では、麹菌に限定せずに糸状菌というひとつ大きな括りで見てみても、その分野を研究していらっしゃる方は多いとは言えません。生化学系の研究者は哺乳類やヒトそのものを対象とする方が多いです。ただ、糸状菌は人々の生活とも密接なつながりがあり、様々な産業において重要な役割を担っております。ですので、今後この糸状菌の研究を通し、何か役に立つ成果を出せればと思っています。

 
(注1)先端物質科学研究科のうち、細胞代謝生化学グループと細胞代謝遺伝学グループは、連携大学院の独立行政法人酒類研究所内の協力講座にて修士号、博士号取得のための研究を行っています。
          https://www.hiroshima-u.ac.jp/adsm/graduateschool/bio/k_nrib
          独立行政法人 酒類研究所ホームページ
          http://www.nrib.go.jp/index.html

(注2)先端物質科学研究科 平成25年度 大学院学生の国内における国際学会発表支援制度について
         https://www.hiroshima-u.ac.jp/adsm/f_support

 
取材者:志田 乙絵 (文学研究科人文学専攻 日本・中国文学語学コース 博士課程前期1年)


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