第17回 生物圏科学研究科 D3 神本 真紀さん

写真:神本真紀さん

取材日 2014年9月17日

第17回研究室訪問は、生物圏科学研究科 生物機能開発学専攻の博士課程後期(D)3年、神本真紀(かみもと まき)さんが取材に応じてくれました。食中毒を引き起こすノロウィルスに対して有効な成分をつきとめた神本さんに研究のやりがいやD進学へ至った決め手などを伺ってきました。

研究をはじめたきっかけは?

高校の時から生物は大好きでした。座学ではなく実験やフィールドワークに興味を持って大学を選びました。研究を非常に面白いなと思ったきっかけは大学3年生前期の授業でした。紙の上だけのバーチャル研究でしたが、1つテーマを与えられてその解決に向けて自分で解決法を組み立て、それを発表するというものでした。その時にいろいろな知識や実験を組み立てていく面白さを感じました。その後卒業論文の研究を体感し、もっと研究を行いたいと思って大学院の進学を決めました。

研究内容はどのようなものですか?

タンニンを含む植物の抗ウィルス効果について調べています。
タンニンというのは植物由来の渋み成分でお茶やコーヒーなどにも含まれています。このような食べられる物質の抗ウィルス効果を様々な角度から検証しています。
ご存知の方も多いと思いますが、毎年冬にノロウィルスによる食中毒が多発しています。ノロウィルス食中毒は、日本の食中毒患者の半数以上を占めるため、発生を予防することが必要です。しかし通常のエタノール消毒では、ノロウィルスには効果がないため簡単にやっつけられないのです。厚労省認可の消毒剤である次亜塩素酸ナトリウムは、漂白剤の主成分で鼻につく臭いがあること、人体に有害であることが知られており、食品を扱う現場で使用するにはとてもリスクの高いものです。そこで口にしても問題のない安全なものでノロウィルスをやっつけようと、その方法を検証し、食中毒の発生予防に繋げようと研究を進めています。
博士論文の研究では、主に「柿渋」を使った研究をしました。過去の研究で、渋柿の絞り汁である柿渋にノロウィルスに対する効果があることわかっており、この柿渋のどの成分が抗ウィルスと効果を持っているのかを明らかにすることにしました。当初から柿タンニンが主な有効成分だろうといわれていたのですがそれを証明するには多くの課題がありました。
そのうちの一つが、柿タンニンの抽出や精製が現段階ではできないという事でした。柿タンニンは分子量が非常に大きな物質で精製ができませんでした。そのため柿タンニンのみを加えたり、濃度を変えたりすることができないので非常に証明に手間取りました。どのように証明するかは長い間、試行錯誤を重ねました。いろいろな事を試したのですが、なかなか研究成果がでませんでした。何度か「やめようか」と考えたこともありましたが、証明のための技法を確立しそれがうまくいった時、心から「やめなくてよかった」という喜びがあふれてきました。
人体に無害で抗ウィルス効果の高い柿渋は、ノロウィルス以外の様々な病原ウィルスに対しても効果を示すことが証明されています。また、柿渋の抗ウィルス効果を使用して、共同研究を行っている企業からは柿渋入りの消毒剤が発売されています。柿以外にもタンニンをもつ植物の中に、ノロウィルスに効果を示すものを発見して、現在特許を出願しています。今後も柿タンニンをはじめ、タンニンを含む植物のさらなる応用が広がっていけばいいと思っています。

D進学の決め手は?

マスターの時には実験を行う仕事に就きたいと思い就職を考えていました。Dの世界には興味はありましたが将来のことや金銭面でも不安があり、その時は「カクゴ」が足りず断念しました。卒業後は技術スタッフ兼研究生という立場で働いていました。そこで実験と研究の違いを改めて実感しました。当たり前のことかもしれませんが実験というのはある程度決まった工程を行うという「組み立ててあることを行う」ことで、研究とは問題解決を図るために新しい実験方法を編み出すことや、実験を組み合わせて証明をする「組み立てる」行為だとわかりました。その期間、自分が将来的にどちらの立場で関わっていきたいかを考えた時に研究という「組み立てる」立場で関わっていきたいと強く思い、そのためにはきちんと博士号を取っていなくては駄目だと思い、Dへの進学を決めました。

写真:実験をする神本さん

先生の指導方針や研究室の特色は?

自主的に行動するという方針だと思います。基本的に研究は自分で計画を立てて進めますが、新しいことを始めたり、行き詰ったりした時などにはサポートしてくださいます。
研究室は非常に仲の良い、連携が取れた研究室です。基本的に週に1回先生と同じ研究グループの人とミーティングを行い、1週間の結果報告をして今後の方針を決めて行きます。いい結果が出せるように、ミーティング以外でも皆よく話し合います。ほかにも、最新の論文を紹介するペーパーセミナーや研究経過発表をするリサーチセミナーがあり、年に最低5回ぐらいは研究室のメンバーの前で発表する機会があります。留学生も在籍しているので、英語を勉強する機会にも恵まれています。

研究環境はいかがですか?

かなりいろいろな機器や試薬が研究室にあり、非常に設備は整っています。また、企業や公的機関との共同研究もいくつか行っているので、大学以外の方との関わりもあり、社会勉強にもなっています。

今後のご自身の展望は?

Dでは多くの力を培わせてもらいました。実験手法や専門知識などの学問的な事ももちろんですが、プレゼンテーション能力やスケジュールの組み立て、グループでの問題解決など社会人として必要な力です。これからいろいろな場所でさまざまな仕事をしていくと思いますが、研究で培った力を生かして挑んでいきたいです。

写真:神本真紀さん

取材者:岡田佳那子(理学研究科 生物化学専攻 博士課程後期2年)


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