第30回 工学研究科 D2 中島 真実さん

写真:中島さん

取材日 2015年11月18日

第30回研究室訪問は、工学研究科 有機材料化学研究室の博士課程後期(D)2年、中島 真実(なかしま まこと)さんが取材に応じてくれました。有機化合物を使用して太陽光電池に関する研究をされている中島さんは、有機化学のプロ、有機化学は理論では測れないところがあり「やってみないとわからない」ところが魅力だと楽しく語ってくださいました。今回は中島さんに研究を始めたきっかけやDに進むことの魅力についてお聞きしました。

研究を始めたきっかけは?

もともと手を動かしてものを作ることが好きだったので漠然と大学では工学部に行きたいと考えていました。「ものづくり」=「機械」が一番だと思って、最初は機械系を志望していました。ところが高校3年生の時に化学を担当してくださった先生の授業がきっかけで工学部の化学系に進むことにしました。その先生は今でも大学の公開講座で勉強されるほど化学に情熱のある方です。今でも覚えているのが傘袋みたいなビニール袋に水素と酸素をいれて教室で火をつけてくださった事がありました。隣で授業していた先生が飛んでくるほど大きな音がしましたが、いろいろな意味で刺激的で面白い授業でした。その中で化学の面白さと機械の部品や基盤などすべてのものづくりの基礎に化学はあるということに気づきました。

研究内容はどのようなものですか?

近年、注目されているクリーンエネルギーの一つである太陽光電池について研究しています。皆さんも家の屋根の上などに載っているソーラーパネルを見る機会も増えたと思います。こうした大きなソーラーパネルを作り出しているのは無機化合物です。無機化合物は丈夫で太陽光からエネルギーに変換する効率も良いのですが硬いし重いので現在のような四角い物を設置することしかできません。しかし、今私たちが研究している有機化合物を使用した太陽光電池は柔らかく軽いのが特徴でアーチ状にしたりすることが可能です。さらに私の研究している有機薄膜太陽光電池は皆さんがプリンターを使って印刷するように太陽光電池の素子を印刷することができるという特性を持っています。これにより簡便に大量に作成することができますし、有機材料は何年も経て処分するときに特別な処理は必要なく燃やして処分ができるというメリットもあります。しかし、有機化合物を使用した太陽光電池は耐久性が弱く、エネルギー変換効率が非常に悪いということが問題になっています。
そこで私の研究ではこの有機薄膜太陽光電池のエネルギー変換効率が良くなるような化合物の合成を行っています。太陽光発電ではホストとなる化合物が太陽光を浴びることでゲスト材料に電子を譲渡することで発電がされます。私はそのホストの化合物を研究していて既存の研究から新しい化合物を作って最もエネルギー変換効率の良い化合物を探索しています。私たちの使っている化合物は2つのユニットからできているのですがこのユニットの形や結合の方向を変えることでかなりエネルギー変換効率が変わります。この有機化学の合成はとても面白く「作って、試行してみなければわからないことが多い」というのが現実です。もちろん、計算上である程度有効な化合物などを算出するシステムが存在しますがその通りに行かないことが多いです。例えば私の行った実験ではユニットの片方に優れたエネルギー変換効率を示すことが報告されているユニットを用いた場合、今までの論文ではかなり有効な値を示した化合物での数値が頭打ちになり、良い結果を残せなかったことがありました。
まだまだ無機の材料を使った太陽光電池の方がエネルギー変換効率は良いですが簡便に作れ、柔らかな有機素材が今後さらにエネルギー変換効率が良くなり、各家庭が気軽に取り付けられるようになればどんどんクリーンエネルギーが普及していくのではないかと思っています。

写真:薬品

D進学の決め手は?

一番の決め手はこの研究が楽しかったという事です。修士課程に所属しているときに将来は民間企業で研究職として働き、もっと実際のものづくり現場で社会に還元していきたいと考えました。そこで就職も考えたのですが、そのころこの研究が本当に楽しくてさらに深く勉強したいと考えたことと先輩がDに行って研究に取り組む姿やその後就職したのを見て、迷った自分がいました。迷うということはやりたいという気持ちがあるということに気づいた事、この研究は大学でしかできない事などを考えた結果、もう少し納得できるまでこの研究をしたいと思いました。

写真:中島さん

先生の指導方針や研究室の特色は?

わりと自由な研究環境です。学生はやってみたいと思ったことをやってみることができるのですがもちろんやったことには責任が当然ついてきます。そのためみんなよく考えてから実験しているので良い傾向なのではないかと思っています。また、実験で困ったことがあったら自分から先生にアプローチすれば力になってくれます。特に私の研究室では学生一人一人完全にテーマが異なるので行き詰っても誰かに頼ることはできません。その分やりがいはありますが当然、行き詰ることも多いです。そう言った時には先生に相談に行くと何らかのアドバイスをしてくれたり、学生の将来も非常に考えてくれたりします。私が民間企業の研究職を希望しているということを伝えると企業に出るなら少しでも早いほうがいいからと早期卒業を進めてくださり、早期卒業に向けての準備なども進めてくださいました。

研究環境はいかがですか?

現在、研究室は有機化学合成の素材を使用した太陽光発電の共同研究グループに所属しているのでいろいろなことを共有して有機の素材を使用した太陽光電池を作成しています。当研究室では新しい化合物の合成を主にやっていますが、その中でエネルギー変換効率が良いものは共同研究先に送って素子として使用したり、実際に太陽光電池として使用できる形にまで工程を行い、その中で問題点がないか効率や費用はどれくらいになるかを検討しています。そのおかげでいろいろな問題点などがグループ全体で把握でき、わからないところや疑問点なども共有することで早く解決できています。そのため新しいものづくりをする研究環境としてはとても恵まれていると思います。

今後のご自身の展望は?

今やっている研究とは全く異なる分野かもしれませんが化学系の企業の研究職に就職が決まっています。研究内容が決まっていないのでこんな研究をして社会の役立ちたいとは明言できませんが、会社にとってなくてはならない人材になりたいと思います。会社に入って最初は今までとは異なることも多く、なかなか企業に貢献することはなかなかできないかもしれません。しかし、色々な経験を積み徐々に企業にとって「いなくなったら困る人」になりたいと思います。いなくなったら困る人とは研究チームの中で信頼されてその分野を任せていただいたり、その人に聞いたら素早く良い答えが返ってくるような人だと思います。いまはまだその段階には及びませんがこれから経験と知識を積み重ねてそのような人になれることを目指していきたいです。

写真:中島さん

取材者:岡田 佳那子(理学研究科博士課程後期3年)


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