第5回 理学研究科 D2 福圓 真一 さん

写真:福圓さん

広島大学大学院 理学研究科 有機典型元素化学研究室 (山本研究室)  

取材実施日:2013年2月7日

第5回研究室訪問は、有機典型元素化学研究室の博士課程後期(D)2年、福圓真一さんが取材に応じてくれました。研究を始めたきっかけや研究室の特色、研究のやりがい等色々とお伺いしました。

Q:研究を始めたきっかけは?

現在の研究を選んだきっかけは、正直なところじゃんけんで負けて偶然選びました。私の研究室では配属後、先生から与えられたテーマの中から、同級生の話合いで担当テーマを決めますが、私の場合、やりたいテーマがかぶってしまったのでじゃんけんで決めました。偶然選んだテーマでしたが、私のテーマはずいぶん前から研究がされている一方で、すごく難しくて挑戦的なテーマであることが分かりました。偶然出会ったものや人を大事にするというのが私の信条です。
修士卒業後は就職する予定でしたが、Dへ進んだのはM2でまだ研究が終わっておらず、このまま卒業したら一生後悔するなと思いDへの進学を決めました。また、Dの方と接することが多くDoctorはいいなと思っていたこともあります。大学に入ったときに国際交流に興味があり、留学生の生活支援ボランティアをしていました。その人がフィリピンから来た研究者の方であったことや、Dの方と接する機会が多くありました。日本でDを持っていると就職が難しくなるとイメージがあると思いますが、するべきことをしていれば問題ないと思います。
 

Q:研究内容はどのようなものですか?

研究ではこれまでに無い炭素化合物の合成を行っています。炭素には通常4本の結合手があ りますが、結合手が2本しかないカルベンという普通にはないものが存在します。カルベンは面白い性質を持つことが知られていて、多くの研究者により安定に合成されていますが、まだ不安定過ぎて合成できていないものもあります。カルベンを長寿命化するにはどう分子設計すればいいか、有機合成の力で0だったも のを1にする研究をしています。

Q:カルベンの面白い性質とは?

私がターゲットとしているものは、カルベンの中でも三重項カルベンと呼ばれる化学種で、有機磁石の素材として使える可能性があります。学術面だけではな く、応用面としても研究をやる意義がここにあります。具体的には、無機磁石を世の中にたくさんある有機分子を使って代替できたり、炭素化合物は軽いので磁 石の軽量化ができたり、有機合成で磁石の性質を微調整したりと可能性は無限に広がります。

写真:福圓さん

Q:研究室の特色や先生の指導方針はどのような感じですか?

山本先生は指導される際、「自分で考えてテーマを展開できる能力」を大事にされています。研究室配属の時にテーマを与えられ、細かいところは全部自分たちで決めます。自主的にやるというのが先生の方針ですので、特に決まったルールはありません。また「国際的な学生を育てたい」と先生は考えておられるので、留学したい人が多いというのが研究室の特色です。

Q:福圓さんは様々な海外経験があると伺いましたが?

学部4年生の時に広島大学の交換留学プログラム(HUSA)(注1)でアメリカネバダ大学リノ校へ半年間留学したり、組織的な若手研究者等海外派遣プログラムでハワイやオーストラリアであった学会に行ったり、ドイツのベルリン自由大学へ2ヶ月間研究に行ったことがあります。ドイツでは日本ではできない実験をすることができましたし、国際的な人脈もできました。
今はなくなってしまいましたが、組織的な若手研究者等海外派遣プログラムのような経済的支援があれば海外に行きやすくなるので、こういう形のものがずっと残り続けたほうがいいと思います。普段は実験があり、アルバイトをすることができないのですごく助かりました。

(図)ドイツ留学中に出会ったDの学生と。
日本で行われた国際会議で再会した時の一枚です。

 

写真:福圓さん

Q:海外に興味をもたれたきっかけは?

学部1年生の時に大学で何をやろうと考えたところ、英語ができて国際的に活躍できる研究者になりたいという思いがありました。そこで、学部生の頃には英語を使えるようになろうと、Masterになったらそれを使って研究をしようと思っていました。会話パートナーなど学内の国際交流活動に参加していましたね。当時理系の学生で国際交流に参加している人は少なかったですが、今は増えているように感じます。英語で論文を書かなくてはいけなかったり、海外で発表したり英語を使う場面は理系では多いので、大学の理系学生に対する留学や国際交流の情報提供にはぜひ力を入れて頂きたいです。(注2)

Q:研究環境はいかがですか?

“学生には思いっきり実験してほしい”という先生の思いがあり、研究環境は整っています。器具は充実していますし、他大学との共同研究も頻繁に行われています。
共同研究は非常に有益で、以前実験でカルベンを作ろうとしていた時に何かよくわからないものが出来たことがありました。
それをどうやって論文にするかという時に、異分野の研究者の方と話し合い、実験を行うと新たな発見に繋がり、論文を報告できました。学会に行く時も感じることですが、人との出会いは大切だと思います。

写真:福圓さん

Q:就職はどのような方面にされる方が多いですか?

ほとんどの学生はMasterで卒業し化学系の企業に就職しています。最近は国内の化学企業の多くが世界に向かっています。私自身、現在就職活動をしていますが、履歴書のところに英語力や留学経験を書く欄があり、留学で何をしてきたかが言えることが大事だと感じています。理系だとやはり語学だけでなく研究をするために留学をしたほうがいいと思います。
研究を海外という異なる環境ですることは大事だと思います。英語が完璧でなくても心配する必要はありません。難しいことに挑戦していくなかで、人との交流を大事にしながら積極的に研究を進める事ができるかということが出来ていれば、日本も海外も変わらないと思います。いかにコミュニケーションがとれるかということが大切です。

Q:自身の今後の展望は?

卒業後は、企業への就職を考えています。自分のアイデアを活かした新素材の開発に取り組み、海外の政策拠点、事業所との連携にも関わりたいです。
INUセミナー(注3)や留学生ボランティア(注4)を通じ、文化の話やコミュニケーションをとるのが楽しかったことから、開発途上国に興味を持つようになりました。
化学企業だと、開発途上国の生活や衛生面を改善するといったとこでビジネスを行っているところがたくさんあるので、そういったところで化学を通じて貢献していきたいと思っています。
大学では基礎研究をやっていましたが、PDCAサイクルを意識し、毎日実験して、苦労する中で頑張れる力がついたと思います。この力は分野がどこであれ使えると思うので、そこを生かして世界に貢献していきたいです。
実験で失敗することは多くありますが、新しいことをするときに失敗はつきものです。失敗してもできないことがわかったと前向きにとらえていく。そういった姿勢も研究室に入って勉強できました。

Q:D人材である価値とは何だと思われますか?

D人材である価値は、単なる即戦力ではなく、新規研究テーマを立ち上げ、実行する力だと思います。また、分野を融合したテーマは一人では出来ないので、異分野の研究者と協力し、話し合うことが大事だと思います。チームの一員として活動する時に、D人材は担当分野のプロなので、価値が見出だせると思います。
大切なのは、「自分のアイデアを活かして研究ができる」「文化、分野を超えてコミュニケーションがちゃんととれる」ということが大事だと思います。Dの3年間で経験したことを活かして、今後も新しい場所での研究や出会いを楽しみたいと思います。

写真:福圓さん

(注1)広島大学の交換留学プログラム(HUSA)
https://www.hiroshima-u.ac.jp/husa
(注2)留学アドバイジング
https://momiji.hiroshima-u.ac.jp/momiji-top/learning/ryugakuadvising.html
(注3)INUセミナー
https://www.hiroshima-u.ac.jp/international/network/inu
(注4)学内の国際交流活動
https://momiji.hiroshima-u.ac.jp/momiji-top/life/kokusai/kouryu.html

取材者:市川 壮太 (国際協力研究科 開発科学専攻 平和共生コース 博士課程前期2年)


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