広島大学大学院工学研究院の栗田雄一准教授は、ダイヤ工業(株)と共同で研究を行い、無電力供給型身体機能増強スーツ:Unplugged Powered Suitを開発しました。
本装置は、ダイヤ工業(株)が新しく開発した低圧駆動型の空気圧人工筋を搭載することで、歩行時の地面反力を活用し、ポンプで圧縮した空気を使って、身体運動支援力の生成が可能です。これにより、重くてかさばるコンプレッサやタンクを一切使わない空気圧人工筋駆動によるアクティブアシストスーツを世界で初めて開発しました。
平成27年11月30日に広島大学東広島キャンパスで、本研究成果の記者説明会を開催しました。
会見の様子
【本装置の特徴】
(1)機械部品や電動装置を使用せず非常にシンプルかつ手軽な構成
(2)軽くソフトな素材で構成されており、安全で着脱が容易
(3)人工筋やポンプの取り付け位置は自由に決められることから、さまざまな運動シーンで利用可能
【背景】
老化・疲労の影響により筋力が低下すると,怪我・事故が発生する可能性が大きくなります。その為、運動や外出が億劫になり、さらなる筋力低下を招くという悪循環が発生します。その悪循環を断ち切るには、対象者が進んで運動がしたくなるような、手軽で楽しい動作補助装置が必要となります。
空気圧人工筋は、圧縮空気を供給することで全長が収縮する基本構造をもち、軽量柔軟であるという特徴から、身体に装着して動作を支援するアクチュエータとして適しています。しかし、従来の空気圧人工筋は、人の運動を支援する十分な収縮力を出すためにかさばるコンプレッサやタンクを必要としました。
本装置は、新しく開発した低圧駆動型の空気圧人工筋を搭載することで、コンプレッサやタンクを使わなくても、身体運動の支援力を生成が可能な構造を実現しました。
【装置の概要】
本装置は、「駆動部」である人工筋、「空圧源」であるポンプ、「伝達部」である配管、の3部から構成されます。
本装置は歩行の遊脚期(地面を離れて振り出されている側の足)を支援することを目的としており,股関節遊脚期の股関節屈曲と膝関節伸展に働く筋肉の走行に沿って人工筋を配置しています。またポンプを非支援脚の足裏に配置しました。これにより、遊脚前期(支援脚が離地するタイミング)で人工筋に収縮力が発生し、後期遊脚期(支援脚が接地するタイミング)で人工筋の収縮力が消失します。つまり、本装置は歩行の動作に合わせて、必要な時のみ股関節屈曲支援が可能となっています。
【応用例】
1.歩行速度増強タイプ
人工筋をヒラメ筋(足首を伸展させるふくらはぎの筋肉)の走行に沿って配置し、ポンプを同側のつま先に配置することで、走行時の地面の蹴り出しの力を増強し、走行速度を向上させます。
2.投球速度増強タイプ
人工筋を大胸筋(腕を振る胸の筋肉)の走行に沿って配置し、ポンプを反対側の足裏に配置することで、投球時の腕ふりの力を増強し、投球速度を向上させます。
【今後の展開】
より効果的な人工筋の配置の検討、ポンプと人工筋の容量の最適化、複数の対象者へのモニタリングによる意見収集と効果検証、他部位への展開、装置の着けやすさ改善を行います。
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赤色の「人工筋」、緑色の「ポンプ」について説明する栗田准教授(左) | 装置を着用し、歩行する様子 |
【研究内容に関するお問い合わせ先】
広島大学大学院工学研究院 電気電子システム数理部門
准教授 栗田 雄一(くりた ゆういち)
TEL:082-424-7678
E-mail:kurita@bsys.hiroshima-u.ac.jp