血友病診療の実際

トップページ 血友病センターとは スタッフ構成

1)血友病の重症度分類について

凝固因子活性の値により、下記のように分類されています。

  • 重症 <1%
  • 中等症 1~<5%
  • 軽症 5~<40%

2)血友病の症状について

<重症・中等症患者の場合>

 出生時の産瘤が大きい、臍帯部出血、そして稀ですが新生児期の頭蓋内出血で気づかれることがあります。ハイハイをする時期には、腕や下肢の皮下出血などで、また歩行が始まる生後1年くらいの時期には、転倒して顔面などの打撲部血腫や紫斑で気づかれて、診断に至るケースが一般的です。また幼児期になると足関節内出血や筋肉内血腫などの深部出血が増えます。学童期になると肘関節内、膝関節内出血の頻度が増えてきます。鼻出血、血尿を認める場合もあります。

<軽症患者の場合>

 関節内出血は稀で、スポーツ活動も変わりなくできる人がほとんどです。ですから外傷後の筋肉内血腫や手術・抜歯後の止血で初めて気づかれることもあるので、診断確定の年齢が高いことは特徴と言えるでしょう。

3)インヒビターについて

 インヒビターとは、血液凝固因子を中和して働きを悪くする物質のことです。インヒヒビターは、不足している凝固因子を補充することがきっかけとなって発生します。ほとんどが、初回輸注後6ヶ月~1年以内、または輸注回数20回以内に発生します。一旦発生しても、自然に消えてしまう場合もありますが、ずっと消えない場合もあります。ずっとインヒビターが存在する場合は血友病Aで10~15%、血友病Bで2~5%です。

4)血友病でよくみられる血液検査異常値

 血友病患者においては、血小板数や出血時間、プロトロンビン時間(PT)は正常です。活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)は延長し、第VIII因子または第IX 因子活性は低下します。重症度を決定する場合には、複数回検査を行い、その最低値で決めます。前出のインヒビターの検査ですが、初診時、初回の血液凝固因子製剤使用前には必ず測定します。製剤使用開始から6ヶ月までは原則として毎月実施します。またインヒビター保有患者はその値の推移を見るために、3~4ヶ月に1回実施します。インヒビターがない患者も年1~2回は実施して、インヒビターの発生の有無を確認します。

5)保因者とは

 患者ではないが、血友病患者を産む可能性のある女性を指します。保因者の診断には凝固因子活性測定による診断と、遺伝子診断があります。保因者の凝固因子の活性は、理論上正常域の約半量のはずですが、必ずしもそのようになりません。ですから、凝固因子活性測定による診断は推奨されません。保因者女性の現在の「血を止める能力」を示しているに過ぎないのですが、今後の生活で注意すべき点などを考える材料にはなるでしょう。遺伝子診断は、日本で数施設でしか行っていません。本院では現時点では実施できませんが、早急に体制を整えている最中ですので、今しばらくお待ちください。

6)血友病治療について

 血友病Aでは第VIII 因子を、血友病Bでは第IX 因子を濃縮した血液凝固因子製剤があります。不足した凝固因子の補充には、それを使用します。また製剤にはヒト血漿由来製剤と遺伝子組み換え製剤があり、近年ではもともとの第VIII因子、第IX因子に修飾物を付けて、血中で凝固因子の半減期(半分に減ってしまう時間)を延長し、効果を長く保つ半減期延長型製剤も使用されるようになりました。凝固因子製剤の輸注量の計算は以下の通り行います。

  1. 血友病A:第VIII因子の輸注量(U)=上昇期待値*(%)×体重(kg)÷2
  2. 血友病B:第IX因子の輸注量(U)=上昇期待値(%)×体重(kg) 

 1回の輸注で良好な止血が得られず、追加輸注が必要な場合、血友病Aなら12〜24時間後です。血友病Bは、半減期延長型製剤でない(標準型)場合24 時間後ですが、半減期延長製剤の場合は48時間後とされています。前述の式によって計算される輸注量はあくまで目安であり、個々の患者で血中因子活性をモニターしながら調整することが望ましいです。凝固因子の補充ですが、これは自己注射・家庭注射が認められています。ですから、自己注射の手技を習得すれば、出血の度に病院に受診する必要はなく、処方された製剤を輸注して様子をみます。しかし、頭蓋内出血、胸腔・腹腔内出血などの場合には、凝固因子活性を速やかに正常域に上げ、それを一定期間(数日〜2週間)保つ必要があります。ですからその場合には入院加療が必要となります。2000年代になって、定期的に製剤を注射して出血を抑制する「定期補充療法」が普及しました。本院の重症患者の90%以上は、この療法を行っており、年間出血回数は2回程度にまで抑えています。また定期補充療法を行っている患者で、頭蓋内出血、胸腔・腹腔内出血は起きていません。

7)より詳しく血友病診療・ケアを学びたい方へ

http://www.aids-chushi.or.jp/ketsuyu/index.html

本センターでは、日々の血友病診療経験を活かし、【なるほど!!血友病まねーじめんと】を発行しております。研修医やこれまで血友病診療に携わる機会のなかった医師、血友病を極めたい看護師などを対象とした内容になっています。閲覧無料ですので、自学自習用にご利用ください。

http://www.aids-chushi.or.jp/care/press/index.html

本センターでは、血友病という病気をあまり知らず、ケアが難しいのではないかと受け入れを躊躇っている医療従事者のために、【知らないままでいいの?ケツユウビョウのあれこれ~施設での不安をこれで解消!~】を発行しています。血友病について深く知りたくなる足がかり的な内容に仕上げています。閲覧無料ですので、自学自習用にご利用ください。


up